ASH2016速報

Poster Presentation

発作性夜間ヘモグロビン尿症患者における全身MRIの役割
The Role of Whole-Body Magnetic Resonance Imaging (WB-MRI) in Patients with Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria (PNH)
Ferras Alashkar, et al.
Department of Hematology, West German Cancer Center, University Hospital Essen, University of Duisburg-Essen, Essen, Germany

Ferras Alashkar先生
Ferras Alashkar先生

背景

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)はまれな造血幹細胞のクローン性異常で、補体介在性の血管内溶血が制御できなくなり、それが血栓性素因となって、血栓塞栓症、骨髄不全に伴う血球減少が生じる疾患である。PNHはたちの悪い後天性の血栓性素因のある状態であり、血栓塞栓症の発症率および死亡率は高い。PNHクローンサイズは血栓症の発現と関連する可能性はあるが、クローンサイズが小さな患者でも血栓症は発現する。血栓塞栓症の早期発見は、終末補体阻害薬であるエクリズマブの投与対象例を同定し、予後を改善するうえで極めて重要である。

対象・方法

本研究の対象は、2013年12月から2016年1月の期間に、全身MRI検査(1.5テスラ)を実施した37例とした。対象のうち女性は19例(51%)、年齢中央値は44歳、D-ダイマー中央値は0.23mg/Lで、PNH患者が23例、再生不良性貧血-PNH症候群が14例であった。MRI検査では、頭蓋内TOF(time-of-flight)-MRA、動脈および静脈の造影MRA、T1強調造影fat-suppressed gradient-echo sequence(radial volumetric interpolated breath-hold examination:VIBE)を評価した。FLAERで評価したGPIアンカー型膜蛋白を欠損する顆粒球クローンサイズ中央値は88%で、ドイツのPNH診療ガイドラインに則って全例が治療を受け、37例のうちエクリズマブ投与例は26例(70%)で、23例はMRI施行前からエクリズマブ投与を開始していた。残りの3例はMRI検査後に血栓塞栓症以外の理由により開始していた。37例のうち24例(64%)ではMRI施行前に血栓塞栓症は同定されておらず、2例は血栓塞栓症(肺塞栓症、深部静脈血栓症)の疑いがあり、残りの11例(29%)は静脈血栓症(深部静脈血栓症5例、門脈血栓症4例、大静脈血栓症2例)の既往例であった。また、1例は心筋梗塞、2例は脳静脈洞血栓症または視床梗塞の既往例であった。6例(16%)は複数の血栓塞栓症の既往があった。

結果

血栓塞栓症の既往例では、既存の血栓症の進行は認められなかった。
観察期間中に肺塞栓症の発現は認められなかった。
血栓塞栓症の既往がありエクリズマブを投与した患者のうち1例では両側腎梗塞が(図1)、もう1例では下肢で骨梗塞が同定された(図2)。
血栓塞栓症の既往のない2例では下肢の骨梗塞が認められた(クローンサイズ>50%)。
他の1例では診断未確定の左側腎梗塞が同定された。
ほかにも1例で右前脛骨動脈の閉塞が同定された。

図1 両側腎梗塞が同定された症例のMRI像(51歳、女性、PNH)

図1 両側腎梗塞が同定された症例のMRI像(51歳、女性、PNH)

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図2 両側骨梗塞(大腿骨、近位脛骨)が同定された症例のMRI像(37歳、女性、PNH)

図2 両側骨梗塞(大腿骨、近位脛骨)が同定された症例のMRI像(37歳、女性、PNH)

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結論

今回の検討では既報1)とは異なり、MRI検査を行っても無症候性の重大な血栓塞栓症は同定されなかった。
しかし、MRI検査を行うことで、診断未確定の腎および骨の梗塞を同定できた。
PNH患者で骨梗塞を報告したのは本研究が初めてである。
全身MRIは、PNH患者の全身血管の状態を評価する新規かつ実行可能な方法であり、従来はできなかった血管合併症の検出が可能になると考えられる。これにより治療方針が影響されるかもしれない。というのも血栓塞栓症にはエクリズマブが適応となるためである。血栓塞栓症の既往例では、全身MRIは治療前の病態評価に有用である可能性があり、特に重大な血栓塞栓症のある患者、腹痛を繰り返したり、呼吸困難が持続するなど血栓症状の強い、あるいは血栓塞栓症が疑われる患者では有用性は高いかもしれない。

Reference
1)Lafforgue P, Trijau S. Joint Bone Spine 2016; 83: 495-499

監修者のコメント

監修:植田 康敬 先生(大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学)

本邦では比較的少ないが、欧米のPNH患者の29~44%は血栓症を一度は合併し、PNHによる死亡の40~67%を占める(Review, Hill A, et al. Blood 2013; 121: 4985-4996)。エクリズマブは血管内溶血を防ぐことで、貧血だけではなく血栓症を予防することが近年報告されており、生命予後の改善に大きく寄与していると考えられる(Kelly RJ, et al. Blood 2011; 117: 6786-6792)。血栓症予防のためのエクリズマブ適応については明確な指針が今のところないが、血栓症既往例については積極的に適応を検討する必要がある。PNHクローンサイズの小さな症例でも血栓症を来すことがあるため、PNH患者における血栓症の評価は非常に重要である。今回Alashkarらは、明らかな臨床症状がないにもかかわらず血栓症を来したと考えられるPNH症例を、MRI検査によって評価することができたと報告している。また、血栓症の一つと考えられる骨梗塞も、PNH患者において初めて報告している。こうした症例に予防的にエクリズマブを投与することが予後を改善するのか、今後の研究が待たれるが、血栓症の評価の一手段として全身MRIが有用である可能性が提示されたことは興味深い。

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