発作性夜間ヘモグロビン尿症患者のT細胞トランスクリプトーム解析による新規シグナル伝達経路の発見
T Cell Transcriptomes from Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria Patients Reveal Novel Signaling Pathways
Kohei Hosokawa, et al.
Hematology Branch, National Heart, Lung, and Blood Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)と再生不良性貧血(AA)は、互いに密接に関連した骨髄不全症候群であり、AAではT細胞介在性の骨髄造血幹細胞の傷害機序が想定されている1)。AAではGPIアンカー型膜蛋白欠損細胞(PNHクローン)が末梢血に存在した場合に免疫抑制療法が奏効しやすいことが知られている2-4)。また、HLA-DR2の保有頻度がAAに比べてAA/PNH患者で高いこと5)、PNH患者ではオリゴクローン性のT細胞レパトアが認められることが知られている6,7)。 しかし、PNH患者のT細胞における免疫応答異常の詳細な分子メカニズムについては十分に検討されていない。そこで本研究では、骨髄の造血幹細胞の免疫標的に関連した分子メカニズム異常を同定することを目的に、PNH患者および健常者から採取した末梢血T細胞サブセットのRNAシークエンス解析によりトランスクリプトームの比較検討を行った。
PNH患者15例および年齢がマッチした健常者から末梢血を採取し、実験に使用した。4種類のT細胞サブセット(CD4+ナイーブT細胞、CD4+メモリーT細胞、CD8+ナイーブT細胞、CD8+メモリーT細胞)を採血同日にセルソーターを用いて単離した。それぞれのT細胞サブセットからRNAを抽出した後、RNAシークエンスを実施し、遺伝子発現プロファイルを比較検討した。トランスクリプトームのパスウェイ解析には標準的なシグナル経路分析法とGene set enrichment analysis(GSEA)を用いた。RNAシークエンシングの結果はフローサイトメトリーとRT-qPCR法で検証した。
References
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監修:川口 辰哉 先生(熊本大学医学部附属病院 感染免疫診療部)
PNHは溶血、血栓症、造血不全を主病態とする。エクリズマブの臨床導入により溶血や血栓症は顕著に改善し、その病態理解も深まったが、造血不全はエクリズマブでは改善せず、その病態も謎のままである。古くからPNHと再生不良性貧血(AA)の臨床的緊密性が指摘されており、両者に共通の免疫学的造血不全機序が想定され、PNHクローンはこのような免疫攻撃を回避して選択的に拡大すると考えられている。すでにこれまで多くの研究で免疫機序を示唆するデータが得られているが、多くは細胞傷害性リンパ球の表面形質や機能など細胞生物学的特徴を解析するものであり、網羅的な遺伝子発現解析による研究は認められない。本発表では、T細胞機能に関する遺伝子発現を、最新の解析技術で網羅的に解析し、患者と健常人とで比較検討している。結果に示されたように両者で明らかな遺伝子発現の違いを認めているが、残念ながら現時点では、この違いが造血不全病態にどのように関わるか結論は得られていない。本研究は、造血病態解明の新しいアプローチという点で評価でき、症例の集積やAAでの検証など、今後の研究の広がりを期待したい。
NPO法人「PNH倶楽部」は、発作性夜間血色素尿症(PNH)患者と家族の会です。サポートセンター、医療費助成基金、活動等についての情報が掲載されています。