ASH2016速報

Poster Session

PIGT変異によって発症する発作性夜間ヘモグロビン尿症:非典型PNH
Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria Caused By PIGT Mutations; Atypical PNH
Yoshiko Murakami, et al.
Research Institute for Microbial Disease and World Premier International Immunology Frontier Research Center, Osaka University, Osaka, Japan

Yoshiko Murakami先生
Yoshiko Murakami先生

背景

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は後天性に造血幹細胞でPIGA遺伝子の体細胞変異によってGPIアンカー型タンパク質が欠損する疾患である(PIGA-PNH)。PIGA機能が喪失すると、GPIアンカー型タンパク質である補体制御因子の発現が欠損することにより補体活性化が制御できなくなり、溶血性貧血、静脈血栓症、骨髄不全などの症状を呈する。PIGA遺伝子はX染色体上にあり、1回の体細胞変異でGPIアンカーは失われる。GPIアンカー型タンパク質の生合成経路に関与する他のすべての遺伝子は常染色体上にあり、GPIアンカーの欠損には2つのアレルの変異を必要とする。

PIGT-PNH症例

2013年に、PIGT変異によってPNHを発症した症例が報告された1))。この症例には1つのアレルに生殖系列のスプライス変異があり、もう一方のアレルに体細胞突然変異によるPIGT遺伝子を含む8Mbの欠損が認められた。
最近、われわれは日本人のPNH患者で、1つのアレルに生殖系列のナンセンス変異があり、もう一方のアレルにPIGT遺伝子を含む18Mbの体細胞性欠損のある症例を発見した2))。
これら2例を比較検討した結果、2つの観点から非典型なPNHであることを報告する。

PIGA-PNHとPIGT-PNHの違い

1つ目は、PIGT-PNHは自己炎症症候群に類似した症状を呈する点がPIGA-PNHとは異なる。両疾患に共通する症状は、持続性の慢性蕁麻疹、関節痛で、日本人症例では無菌性髄膜炎を繰り返し、ドイツの症例では潰瘍性大腸炎が認められた。注目すべきは、これらの症状が溶血発作が生じPNHと診断される前に10年以上続いたことである。蕁麻疹と関節痛、再発性髄膜炎は抗C5抗体であるエクリズマブで改善したことから、補体活性化の関与が示唆された。なお、これらの炎症症状はPIGT-PNHに特異的で、PIGA-PNHには認められない。
PIGTはGPIトランスアミダーゼの1因子で、前駆タンパク質のGPI付加シグナルを認識してそれを切断し、完成したGPIアンカーに結合させる。その欠損はGPIアンカーの蓄積を引き起こし、タンパク質の付かないGPIアンカー(フリーGPI)が細胞表面に発現する。実際にフリーGPIに対する抗体を用いたFACS解析の結果、PIGT-PNH患者から採取したGPI陰性顆粒球、単球、B細胞に、フリーGPIが多く発現していた。フリーGPIが補体活性化とともにインフラマソームを活性化するのではないかと推測している。
非典型PNHのもう1つの特徴は、クローン拡大のメカニズムである。PIGA-PNHでは、GPI欠損細胞が造血幹細胞に対する自己免疫反応から逃れて選択され、さらなる遺伝子異常により拡大すると考えられている。一方で、PIGT-PNH患者で体細胞変異によって欠損した染色体20qの18Mb領域は、骨髄増殖性腫瘍で時に欠損する部位を含んでいる。この領域は抗腫瘍因子をコードする母性インプリンティング遺伝子を含んでおり、父方アレルが欠損すると完全欠損となって増殖性を獲得し非典型PNHではPNHクローンの拡大を引き起こすものと考えられた。
そのため、PIGT-PNHの症状、クローンサイズの拡大メカニズムはPIGA-PNHと大きく異なる。
これらの特徴からPIGT-PNHは非典型PNHと分類すべきである。慢性炎症症状を呈するPNH患者を対象に、FACS解析(フリーGPI検出)によるPIGT-PNHのスクリーニングが求められる。

表 PIGT-PNH症例

表 PIGT-PNH症例

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References
1)Krawitz PM, et al. Blood 2013; 122: 1312-1315
2)52nd Jpn C Sym,2015

監修者のコメント

監修:植田 康敬 先生(大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学)

これまでPNHの原因遺伝子はPIGAのみと考えられてきたが、近年それ以外のGPIアンカー生合成に関わる遺伝子の欠損によっても起こりうることがわかってきた。PIGT遺伝子の欠損によってもGPI-アンカー型タンパクの欠損が引き起こされる点で、従来のPNH(PIGA-PNH)と同様の血管内溶血を来すが、PNH血球の細胞表面にGPIアンカーのみが(GPIアンカー型タンパクが結合しない状態で)フリーGPIとして発現する点で異なる。今回報告されたPIGT遺伝子欠損によるPNH(PIGT-PNH)の2症例は、いずれも自己炎症症状を来し、造血不全を合併しないなど臨床像としても従来のPIGA遺伝子欠損によるPNH(PIGT-PNH)とは大きく異なっている。その違いには細胞表面のフリーGPIが関与したインフラマソームの活性化が示唆されている。PNHの診断には通常PIGA変異の確認はなされないため、PNHと診断された患者の中にはPIGT-PNHが隠れている可能性がある。フリーGPIの検出により容易に患者を同定することができるため、今後さらなる症例の蓄積と解析により、非典型PNHの病態解明が期待される。

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