ASH2016速報

Poster Session

再生不良性貧血に対する免疫抑制療法と発作性夜間ヘモグロビン尿症に対するエクリズマブ治療を同時に行った症例のまとめ:英国での経験
Concurrent Treatment of Aplastic Anaemia (AA) with Immunosuppressive Therapy and Paroxysmal Nocturnal Haemoglobinuria (PNH) with Eculizumab: A UK Experience
Morag Griffin, et al.
St.James’ Institute of Oncology, Leeds Teaching Hospitals, Leeds, UK

Morag Griffin先生
Morag Griffin先生

背景・目的

英国では再生不良性貧血(AA)の発症頻度は100万例に1~2例である。AA患者の少なくとも半数は発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)クローンを保有しており、AAとPNHに対する治療を同時に行う患者が存在する。本研究では、これらの患者に対する治療経験を報告する。

対象・方法

UK PNH National Service (Leeds & London)のデータベースをレトロスペクティブに検討し、AAに対する治療を開始して1年以内にエクリズマブ投与を開始した患者、または、すでにエクリズマブが投与されておりAAに対する治療を開始した患者を抽出した。AAに対する治療反応性はAA診療ガイドラインに則って評価した。

結果

エクリズマブと免疫抑制療法(IST)が併用されていたのは26例であった。
10例は重度のAA、15例は非重度のAA、1例は低形成の骨髄異形成症候群(MDS)であった。
対象の年齢中央値は39.5歳(範囲7~75歳)で、エクリズマブ投与直前の顆粒球クローンサイズの中央値は82%であった。
AAに対する治療法は英国のAA診療ガイドラインに則り、年齢、前治療、併存疾患を考慮して選択した。
26例のうち8例(30%)は抗胸腺細胞グロブリン(ATG)+シクロスポリン併用例、14例(54%)はシクロスポリン単独投与例、1例(4%)はアンドロゲン療法、3例(12%)は初回治療として造血幹細胞移植(HSCT)を受けていた(図1)
ATG+シクロスポリン併用例では1例が完全奏効(CR)、5例が部分奏効(PR)で、PR例の1例はアンドロゲン療法追加によりCRを達成した。治療に反応しなかった2例はHSCT後にCRを達成した。
シクロスポリン単独投与例では14例中1例がCR、7例がPRを達成し、PR例のうち2例はアンドロゲン療法追加後、HSCT後にCRを達成した。治療に反応しなかった6例のうち3例では後治療が行われ、HSCTを受けた2例のうち1例がCR達成、1例は死亡し、もう1例はエルトロンボパグ投与を受けた。
アンドロゲン療法を受けた1例はPR、HSCTを施行した3例はCRを達成した。
いずれかの治療ラインでHSCTを施行した8例のうち、死亡した1例を除き7例がCRを達成した。
死亡例は6例で、1例はHSCTを受けてCR達成後、移植片対宿主病(GVHD)で死亡、1例はHSCT施行中に死亡、2例はPR後に肝細胞癌、感染症で死亡、2例は無効例で原因不明、血小板減少に伴い頭蓋内出血による死亡例であった。
年齢をマッチさせた対照群(エクリズマブ非投与PNH患者群)とAAに対する治療成績を比較検討したが、顕著な差は認められなかった(図2)

図1 AAに対する治療と転帰

図1 AAに対する治療と転帰

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図2 AAに対する治療反応性(対照群との比較)

図2 AAに対する治療反応性(対照群との比較)

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結論

本研究はAAとPNHの治療を同時に行った患者コホート研究として最大規模のものである。
補体阻害療法を必要とする症候性PNHの併存例でも、AAの治療方針は変えるべきではない。
エクリズマブ投与例の免疫抑制療法の治療反応性は、年齢がマッチした対照群と比べて有意差はなかったことから、免疫抑制療法の有効性はエクリズマブ投与でも変わらないと考えられた。
AAとPNHが併存する例であっても、英国のAA診療ガイドラインに則って治療すべきであり、PNHは必要に応じて並行してエクリズマブで治療できると考えられた。
AAとPNHの併存例に対する治療経験の蓄積が求められており、特に補体阻害療法を受けているPNH患者の寿命延長は大きな課題である。

References
Scheinberg P, et al. Haematologica 2010; 95: 1075-1080
Killick SB, et al. Br J Haematol 2016; 172: 187-207

監修者のコメント

監修:川口 辰哉 先生(熊本大学医学部附属病院 感染免疫診療部)

PNH患者では、しばしば造血障害を伴うことから、エクリズマブと免疫抑制治療が併用される機会が少なくないと思われるが、これまで併用効果についてのまとまった報告は認められない。本発表は、先行疾患がPNHか再生不良性貧血(AA)かにかかわらず、免疫抑制療法(IST)とエクリズマブの併用治療を実施した英国患者を解析対象とし、エクリズマブを投与していない年齢を一致させたAA患者と比較することで、ISTの併用効果を評価している。予想通りエクリズマブ併用の有無にかかわらずIST効果は同等であり、PNH造血不全でもAAと同様の免疫機序を示唆する結果が再現されている。本邦でも同様の解析を行い、特にPNHが先行する造血不全に対する治療方針に関するエビデンス蓄積が必要ではないかと感じた。

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