EHA2016速報

ASH2016速報

川口 辰哉 先生

ASH2016 December 3-6

San Diego Convention Center, San Diego Marriott Marquis and Marina, and Manchester Grand Hyatt, San Diego, CA

  • 総監修
  • 川口 辰哉 先生

  • 熊本大学医学部附属病院 感染免疫診療部

第58回の米国血液学会は、2016年12月3日より4日間にわたって米国サンディエゴで開催された。年々参加者が増え、今年は2万7千人余りと3万人も目前で、ポスターセッションでは「押し合いへし合い」の状態になるほどであった。発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)をキーワードに抄録を検索すると43演題となり、その中から7演題を選択して紹介したい。昨年に引き続き新規補体制御薬開発の中間発表がなされ、今回は異なる発想で開発が進んでいる3種類の薬剤について解説を加えた。残りは基礎的研究が2演題、臨床的研究が2演題となっているが、特筆すべきは日本からのPIG-T異常によるPNHの報告である。PNHは、PIG-A変異だけではなく、一定の条件が揃えばPIG-A以外の遺伝子変異でも発症しうることを初めて示しており、これからのPNH診療にも役立つ知識としてご参照願えれば幸いである。

Poster Presentation 1251 ,2428,3891

1251

APL-2, a Complement C3 Inhibitor for the Potential Treatment of Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria (PNH): Phase I Data from Two Completed Studies in Healthy Volunteers

2428

Immediate, Complete, and Sustained Inhibition of C5 with ALXN1210 Reduces Complement-Mediated Hemolysis in Patients with Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria (PNH): Interim Analysis of a Dose-Escalation Study

3891

A Subcutaneously Administered Investigational RNAi Therapeutic (ALN-CC5) Targeting Complement C5 for Treatment of PNH and Complement-Mediated Diseases: Interim Phase 1/2 Study Results

西村 純一 先生

<監修>
西村 純一 先生
大阪大学大学院
医学系研究科
血液・腫瘍内科学

今回の3題は、エクリズマブに続く第二世代の治療薬に関するものである。1題目のC3阻害薬APL-2は、エクリズマブでは一部の症例で問題となっている血管外溶血を阻害することにより、ヘモグロビンがさらに増加し、エクリズマブでは輸血依存から脱却できなかった症例も輸血不要になる可能性が期待される反面、感染症のリスクは高まる可能性があり注視していく必要がある。また、連日投与が必要なのが今後の課題となる。2題目のC5阻害薬ALXN1210は、エクリズマブに抗体のリサイクル技術を応用することにより投与間隔を延長し利便性の向上が期待される薬剤で、効果・忍容性はほぼ担保されているものの、長期抑制による有害事象には注意が必要であろう。1回投与量が多くなるのも今後の検討課題であろう。3題目のC5を標的としたRNAi製剤ALN-CC5は、肝臓特異的にRNAを抑制する技術を用いた核酸医薬であるが、C5をRNAレベルでほぼ完全にノックダウンしても、単独ではLDHを十分に抑制できなかった結果を受けて、エクリズマブとの併用の可能性を検討した結果である。この革新的技術は、他疾患にも応用できる可能性がある。第二世代のPNH治療薬を考えるうえで、効果と忍容性はもちろんのこと、投与間隔の延長、投与方法(静注、皮下注、経口)などの利便性、血管外溶血の抑制と感染症リスクのバランス、価格面など多岐にわたるファクターを考慮して、最良の薬剤が淘汰されていくものと思われる。

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Poster Session 1271 Saturday, December 3

The Role of Whole-Body Magnetic Resonance Imaging (WB-MRI) in Patients with Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria (PNH)

植田 康敬 先生

<監修>
植田 康敬 先生
大阪大学大学院
医学系研究科
血液・腫瘍内科学

本邦では比較的少ないが、欧米のPNH患者の29~44%は血栓症を一度は合併し、PNHによる死亡の40~67%を占める(Review, Hill A, et al. Blood 2013; 121: 4985-4996)。エクリズマブは血管内溶血を防ぐことで、貧血だけではなく血栓症を予防することが近年報告されており、生命予後の改善に大きく寄与していると考えられる(Kelly RJ, et al. Blood 2011; 117: 6786-6792)。血栓症予防のためのエクリズマブ適応については明確な指針が今のところないが、血栓症既往例については積極的に適応を検討する必要がある。PNHクローンサイズの小さな症例でも血栓症を来すことがあるため、PNH患者における血栓症の評価は非常に重要である。今回Alashkarらは、明らかな臨床症状がないにもかかわらず血栓症を来したと考えられるPNH症例を、MRI検査によって評価することができたと報告している。また、血栓症の一つと考えられる骨梗塞も、PNH患者において初めて報告している。こうした症例に予防的にエクリズマブを投与することが予後を改善するのか、今後の研究が待たれるが、血栓症の評価の一手段として全身MRIが有用である可能性が提示されたことは興味深い。

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Poster Session 2450 Sunday, December 4

Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria Caused By PIGT Mutations; Atypical PNH

植田 康敬 先生

<監修>
植田 康敬 先生
大阪大学大学院
医学系研究科
血液・腫瘍内科学

これまでPNHの原因遺伝子はPIGAのみと考えられてきたが、近年それ以外のGPIアンカー生合成に関わる遺伝子の欠損によっても起こりうることがわかってきた。PIGT遺伝子の欠損によってもGPIアンカー型タンパクの欠損が引き起こされる点で、従来のPNH(PIGA-PNH)と同様の血管内溶血を来すが、PNH血球の細胞表面にGPIアンカーのみが(GPIアンカー型タンパクが結合しない状態で)フリーGPIとして発現する点で異なる。今回報告されたPIGT遺伝子欠損によるPNH(PIGT-PNH)の2症例は、いずれも自己炎症症状を来し、造血不全を合併しないなど臨床像としても従来のPIGA遺伝子欠損によるPNH(PIGT-PNH)とは大きく異なっている。その違いには細胞表面のフリーGPIが関与したインフラマソームの活性化が示唆されている。PNHの診断には通常PIGA変異の確認はなされないため、PNHと診断された患者の中にはPIGT-PNHが隠れている可能性がある。
フリーGPIの検出により容易に患者を同定することができるため、今後さらなる症例の蓄積と解析により、非典型PNHの病態解明が期待される。

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Poster Session 2683 Sunday, December 4

Concurrent Treatment of Aplastic Anaemia (AA) with Immunosuppressive Therapy and Paroxysmal Nocturnal Haemoglobinuria (PNH) with Eculizumab: A UK Experience

川口 辰哉 先生

<監修>
川口 辰哉 先生
熊本大学医学部附属病院
感染免疫診療部

PNH患者では、しばしば造血障害を伴うことから、エクリズマブと免疫抑制治療が併用される機会が少なくないと思われるが、これまで併用効果についてのまとまった報告は認められない。本発表は、先行疾患がPNHか再生不良性貧血(AA)かにかかわらず、免疫抑制療法(IST)とエクリズマブの併用治療を実施した英国患者を解析対象とし、エクリズマブを投与していない年齢を一致させたAA患者と比較することで、ISTの併用効果を評価している。予想通りエクリズマブ併用の有無にかかわらずIST効果は同等であり、PNH造血不全でもAAと同様の免疫機序を示唆する結果が再現されている。本邦でも同様の解析を行い、特にPNHが先行する造血不全に対する治療方針に関するエビデンス蓄積が必要ではないかと感じた。

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Poster Session 1042 Monday, December 5

T Cell Transcriptomes from Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria Patients Reveal Novel Signaling Pathways

川口 辰哉 先生

<監修>
川口 辰哉 先生
熊本大学医学部附属病院
感染免疫診療部

PNHは溶血、血栓症、造血不全を主病態とする。エクリズマブの臨床導入により溶血や血栓症は顕著に改善し、その病態理解も深まったが、造血不全はエクリズマブでは改善せず、その病態も謎のままである。古くからPNHと再生不良性貧血(AA)の臨床的緊密性が指摘されており、両者に共通の免疫学的造血不全機序が想定され、PNHクローンはこのような免疫攻撃を回避して選択的に拡大すると考えられている。すでにこれまで多くの研究で免疫機序を示唆するデータが得られているが、多くは細胞傷害性リンパ球の表面形質や機能など細胞生物学的特徴を解析するものであり、網羅的な遺伝子発現解析による研究は認められない。本発表では、T細胞機能に関する遺伝子発現を、最新の解析技術で網羅的に解析し、患者と健常人とで比較検討している。結果に示されたように両者で明らかな遺伝子発現の違いを認めているが、残念ながら現時点では、この違いが造血不全病態にどのように関わるか結論は得られていない。本研究は、造血病態解明の新しいアプローチという点で評価でき、症例の集積やAAでの検証など、今後の研究の広がりを期待したい。

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