発作性夜間ヘモグロビン尿症患者における全身MRIの役割
The Role of Whole-Body Magnetic Resonance Imaging (WB-MRI) in Patients with Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria (PNH)
Ferras Alashkar, et al.
Department of Hematology, West German Cancer Center, University Hospital Essen, University of Duisburg-Essen, Essen, Germany
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)はまれな造血幹細胞のクローン性異常で、補体介在性の血管内溶血が制御できなくなり、それが血栓性素因となって、血栓塞栓症、骨髄不全に伴う血球減少が生じる疾患である。PNHはたちの悪い後天性の血栓性素因のある状態であり、血栓塞栓症の発症率および死亡率は高い。PNHクローンサイズは血栓症の発現と関連する可能性はあるが、クローンサイズが小さな患者でも血栓症は発現する。血栓塞栓症の早期発見は、終末補体阻害薬であるエクリズマブの投与対象例を同定し、予後を改善するうえで極めて重要である。
本研究の対象は、2013年12月から2016年1月の期間に、全身MRI検査(1.5テスラ)を実施した37例とした。対象のうち女性は19例(51%)、年齢中央値は44歳、D-ダイマー中央値は0.23mg/Lで、PNH患者が23例、再生不良性貧血-PNH症候群が14例であった。MRI検査では、頭蓋内TOF(time-of-flight)-MRA、動脈および静脈の造影MRA、T1強調造影fat-suppressed gradient-echo sequence(radial volumetric interpolated breath-hold examination:VIBE)を評価した。FLAERで評価したGPIアンカー型膜蛋白を欠損する顆粒球クローンサイズ中央値は88%で、ドイツのPNH診療ガイドラインに則って全例が治療を受け、37例のうちエクリズマブ投与例は26例(70%)で、23例はMRI施行前からエクリズマブ投与を開始していた。残りの3例はMRI検査後に血栓塞栓症以外の理由により開始していた。37例のうち24例(64%)ではMRI施行前に血栓塞栓症は同定されておらず、2例は血栓塞栓症(肺塞栓症、深部静脈血栓症)の疑いがあり、残りの11例(29%)は静脈血栓症(深部静脈血栓症5例、門脈血栓症4例、大静脈血栓症2例)の既往例であった。また、1例は心筋梗塞、2例は脳静脈洞血栓症または視床梗塞の既往例であった。6例(16%)は複数の血栓塞栓症の既往があった。
Reference
1)Lafforgue P, Trijau S. Joint Bone Spine 2016; 83: 495-499
監修:植田 康敬 先生(大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学)
本邦では比較的少ないが、欧米のPNH患者の29~44%は血栓症を一度は合併し、PNHによる死亡の40~67%を占める(Review, Hill A, et al. Blood 2013; 121: 4985-4996)。エクリズマブは血管内溶血を防ぐことで、貧血だけではなく血栓症を予防することが近年報告されており、生命予後の改善に大きく寄与していると考えられる(Kelly RJ, et al. Blood 2011; 117: 6786-6792)。血栓症予防のためのエクリズマブ適応については明確な指針が今のところないが、血栓症既往例については積極的に適応を検討する必要がある。PNHクローンサイズの小さな症例でも血栓症を来すことがあるため、PNH患者における血栓症の評価は非常に重要である。今回Alashkarらは、明らかな臨床症状がないにもかかわらず血栓症を来したと考えられるPNH症例を、MRI検査によって評価することができたと報告している。また、血栓症の一つと考えられる骨梗塞も、PNH患者において初めて報告している。こうした症例に予防的にエクリズマブを投与することが予後を改善するのか、今後の研究が待たれるが、血栓症の評価の一手段として全身MRIが有用である可能性が提示されたことは興味深い。
NPO法人「PNH倶楽部」は、発作性夜間血色素尿症(PNH)患者と家族の会です。サポートセンター、医療費助成基金、活動等についての情報が掲載されています。