THROMBOEMBOLISM OCCURRED REGARDLESS OF HEMOLYSIS IN PATIENTS WITH PAROXYSMAL NOCTURNAL HAEMOGLOBINURIA– A PROSPECTIVE STUDY OF 464 PATIENTS IN A MULTICENTER CHINESE REGISTRY
Zonghong Shao et al.
Tianjin Medical University General Hospital, Tianjin, China
背景
血栓症はPNHの重要な臨床症状である。最近、LDH値正常上限1.5倍以上が血栓症の危険因子と報告されたが、PNH患者における血栓症の病態は血管内溶血では説明しきれず、より多因子的でありさらなる検討が求められる。そこで、中国の8施設(天津x 2、北京 x 2、成都、南京、上海、ハルビン)が協同して構築した前方向視的非介入PNH患者登録システム(a prospective, non-interventional PNH registry)に2011-2013年に登録された464名のPNH患者を対象として、PNHの病歴と血栓症、溶血の関連性を解析した。PNHの診断はClinical and Laboratory Standards Institute (CLSI)が推奨するプロトコールを用いたフローサイトメトリー法にて行った。
結果
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登録患者内容
464例の年齢は6-84歳(中央値37歳)、男女比は1.07:1、PNHの罹病期間は0.03-307ヶ月(中央値3ヶ月、86%の患者が3ヶ月未満)であった。亜型分類では、Classical PNHが50.8%、PNH with bone marrow failureが42.5%(うちAA:76.5%、MDS:16.5%)、subclinical PNHが6.6%であった。全患者が保存的に治療され、うち67%にステロイドが使用された。PNH型血球の平均サイズは顆粒球53%、赤血球32%であった。LDHの平均値は992U/Lであり、正常上限の4倍程度であった。
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血栓症
38例に血栓症が発症した。うち16例(42%)では多発性で、また同一患者で複数回発症した例もあり、総計60回の血栓イベントが報告された。2年の研究期間中に11例の患者が死亡したが、うち4例(36.4%)の死因が血栓症であった。
血栓症の病変部位は、図1に示す通り静脈(n=36, 70%)、動脈(n=18, 30%)ともにあった。主たる病変部位は、静脈では下肢深部静脈(n=13, 32%)、肝静脈/門脈(n=14, 32%)、 腹腔/脾静脈(n=4, 7%)、動脈では大脳動脈(n=9, 15%)、冠動脈(n=9, 15%)であった。
PNH型血球サイズが50%以上の群と以下の2群に分けても血栓症の発症率に有意差はなかった。(6.95% vs. 8.10%, P=0.651)
血栓症の発症年齢の中央値は42.9歳であった。血栓症の有無で2群に分けても年齢や性別に有意差はなかった。血栓症はいかなる年齢でも起こりえたが、多くは31-40歳で発症していた(26%)。
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血栓症と溶血の関係
血栓症は溶血状態と関係なく発症していた。血栓症を発症した38例(60イベント)中、LDH値正常上限1.5倍未満の患者は5例(13.2%)、10血栓イベント(16.7%)で、PNH型顆粒球の中央値は40.3%、LDH値の平均値は正常上限の0.86倍であった。10血栓イベントの病変部位は図2に示す通り、冠動脈(心筋梗塞1、不安定狭心症1)、下肢深部静脈(3)、肝静脈/門脈(3)、肺静脈(1)、脳血管(1)であった。
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血栓症を予測するLDH値の検討
ROC解析によると、最も感度の高い閾値はLDH値正常上限1.2倍以上(感度90.6%)であった。ちなみに、LDH値正常上限1.5倍以上は84.4%、LDH値正常上限3.0倍以上は56.3%であった。LDH値正常上限1.2倍以上とLDH値正常上限1.2倍未満の2群に分けて単変量解析を行ったところ、有意差が出た(OR 4.17; 95%CI 1.24-13.97, P=0.013)。
図1. 血栓イベントの部位
図2. 低LDH PNH患者における血栓症の割合
結論
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- 保存的治療を受けているPNH患者の死亡原因第1位は血栓症であった。
- 2.
- 血栓症は患者の年齢や性別によらず発症していた。
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- 血栓症の発症と溶血の間に有意な相関は見られなかった。LDH値の上昇なく血栓症を来した患者は血管内溶血以外の機序があることが示唆され、特に注意深く診療されるべき対象と思われた。
コメント
PNH患者における血栓症についての中国からの多施設疫学研究の報告である。
かつて西村らが報告したように、アジアでは欧米と比べて血栓症の発症率が低いことが知られているが、その機序はよくわかっていない。本研究ではLDH値が低いPNH患者でも血栓症を来たしうることが指摘された。今後、本邦において日本PNH研究会が展開しているOPTIMAでもこのように患者を層別化し臨床的特徴を解析していくことが重要なのではないかと思われた。