EHA2014速報

Poster Presentation 1016

PAROXYSMAL NOCTURNAL HEMOGLOBINURIA: CLINICAL EXPRESSION AND RESPONSE TO TREATMENT ARE MODIFIED BY A UNIQUE INTERACTION WITH CO-EXISTING GLUCOSE 6-PHOSPHATE DEHYDROGENASE DEFICIENCY

Michela Sica et al.
Core Research Laboratori - ITT, Istituto Toscano Tumori - AOU Careggi, Firenze, Italy

背景

PNHはX染色体のPIGA遺伝子の後天的異常により、CD55やCD59などの補体防御因子が欠失することで赤血球膜の補体攻撃に対する耐性が低下し溶血を来す疾患である。一方、glucose 6-phosphate dehydrogenase(G6PD)欠損症は、X染色体上のGP6D遺伝子の先天的異常により赤血球膜の酸化障害に対する耐性が低下し溶血を来す疾患である。PNHの臨床症状が先天性異常による修飾を受ける例として、抗C5抗体であるエクリズマブ治療を受けているPNH患者において補体受容体1(CR1)遺伝子多型が輸血頻度と相関していることを著者らはすでに報告しているが、今回新たに、このG6PD欠損症にPNHを併発した症例を世界で初めて報告した。さらに、この2つの異常の関係性についても検討した。

結果(症例報告)

サルデーニャ島(地中海にあるイタリアの島)に住む40歳の女性が汎血球減少のため著者らの病院(フィレンツェ)に紹介された(図1)。溶血所見はなく、PNH型血球も検出されなかった。ところが、初診から2年経って徐々に血管内溶血所見(暗赤色尿、LDH正常上限の約5倍)が明らかとなり、Hb低下・網状赤血球上昇が観察されたため、PNH型顆粒球を再検査したところ陽性で、しかも59%にまで増加していたため、臨床的PNHと診断された。さらに、その6ヶ月後にはPNH型顆粒球は95%まで増加し、溶血所見も悪化した。赤血球輸血依存となったため、エクリズマブによる治療が開始したところLDH値は速やかに正常化した。ところが、網状赤血球数は依然として高く(250 x 109/L)輸血から離脱出来なかった。C3因子はPNH型赤血球の35%にしか存在しておらず、CR1遺伝子型もエクリズマブに対する好反応を予測させる型であったので不審に思い、末梢血塗抹標本を検討したところ、球状赤血球・大赤血球を伴う赤血球大小不同などを認め、G6PD欠損症による赤血球膜酸化障害が疑われた。実際、高い網状赤血球値にも関わらず、G6PD活性は正常の半分程度(5 IU/g Hb)であった。そこで、DNA解析を行ったところG6PD Mediterranean (Med) variant (Exon 6; 563 C>T; 188 Ser>Phe)のヘテロ型であることが明らかとなった(図2a)。興味深いことに、(末梢血の95%を占める)PNH型顆粒球/単球ではG6PD Medアレルしか検出されなかった(図2b)。このことは、正常G6PDが不活性化した方の造血幹細胞にPIGA遺伝子異常が起こったため、PNH cloneの拡大がすなわち異常G6PD cloneの拡大となり、ヘテロ型の女性ではX染色体のランダムな不活性化(ライオニゼーション)のため表現型は野生型と異常型の半々になるはずのところが、本例においては殆どの赤血球が異常型になってしまい、溶血所見を強く修飾していることを示唆していた。

図1.

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図2a.

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図2b.

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結論

1.
G6PD欠損症にPNHを併発した1例を経験した。
2.
本症例におけるエクリズマブに対する反応の悪さは、PNH型赤血球がPIGA遺伝子異常とG6PD遺伝子異常の両者を保有していることに起因しているものと思われた。

コメント

G6PD欠損症にPNHを併発した1例に関するイタリアからの報告である。
PNH治療はエクリズマブにより革命的に改善したが、一部奏功しない症例があることが知られている。例えば、大阪大学の西村らはN. Engl. J. Med.に補体C5因子の遺伝子多型によりエクリズマブの奏功率に差があることを最近報告している。本症例はそのようなエクリズマブが奏功しにくい1例の報告である。わが国ではG6PD欠損症の頻度は低いもの、先天性疾患としてもっとも頻度の高い異常と言われており、今後、エクリズマブが不応の症例を経験した際には、本例のような症例の可能性も考慮すべきものと考えられた。

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