ASH2015速報

Oral Presentation 275

発作性夜間ヘモグロビン尿症および非典型型溶血性尿毒症症候群においてFactor D低分子阻害薬は補体活性化を阻害する
Small Molecule Factor D Inhibitors Block Complement Activation in Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria and Atypical Hemolytic Uremic Syndrome

Eleni Gavriilaki, et al.
Division of Hematology, Department of Medicine, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, MD, USA

Eleni Gavriilaki先生
Eleni Gavriilaki 先生

背景・目的

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)はPIGAに変異が生じ、補体制御因子であるGPIアンカー型蛋白CD55およびCD59が欠損する疾患である。一方、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は補体活性化の第二経路を活性化する変異や自己抗体産生などが生じて、内皮障害、血小板活性化、複合的な臓器障害などが進行する疾患である。
エクリズマブはC5に結合して補体活性化を阻害するモノクローナル抗体で、PNHとaHUSに適応を有するが、注射薬であること、PNH患者の約25%は反応性不十分であることなどの課題があった。エクリズマブ反応性不良の機序として、PNH型赤血球にC3フラグメントが蓄積し、症候性の血管外溶血が持続すること、エクリズマブのC5に結合しにくい遺伝子多型の存在が指摘されている。
Factor Dは血清中の全補体蛋白のなかで最も量が少なく、Factor Bを唯一の基質とし、補体活性化第二経路の律速段階を担う因子である。Factor Dを阻害する低分子化合物は、経口投与してもバイオアベイラビリティが高いことから、経口薬としての開発が検討されている。本研究では、Factor Dの低分子阻害薬はPNH患者の第二経路を特異的に阻害するかどうか、aHUSの溶血を検討するin vitroモデルとして修正Ham試験が有用かどうかを検討した(図1)。

Factor D阻害薬によるPNH患者の第二経路の阻害

第二経路特異的な可逆的阻害薬を3種類(ACH-4471、ACH-4100、ACH-3856)開発し、PNH患者(エクリズマブ投与または非投与)から採取した赤血球と血清を用いてFactor D阻害能を検討した。その結果、3種類のFactor D阻害薬は、いずれもヒトFactor Dと高い結合親和性を示し、基質であるFactor Bの開裂を用量依存性に阻害した(図2)。
Factor D阻害薬は、ウサギ赤血球の溶血を用量依存性に阻害し、C3フラグメントの蓄積を抑制した(図3)。
ヒトPNH型赤血球においても、Factor D阻害薬は用量依存性に、溶血を抑制し(Ham試験)、C3フラグメントの蓄積を抑制した。

aHUSの溶血を検討するin vitroモデル

aHUSの溶血を検討するin vitroモデルとして、修正Ham試験の有用性を検討した。本試験はPIGA欠損TF-1細胞をaHUS血清でインキュベートし、細胞増殖刺激薬を添加したときの補体介在性細胞殺傷能を吸光度の変化から検討するものである。
aHUS患者4例(エクリズマブ投与中、非投与中)から血清を採取し、修正Ham試験を行ったところ、aHUS血清によって引き起こされる細胞死が、Factor D阻害薬によって用量依存性に抑制される様子が確認できた(図4)。

図1 Ham試験および修正Ham試験:PNHとaHUSのin vitroモデル

図1 Ham試験および修正Ham試験:PNHとaHUSのin vitroモデル

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図2 Factor D阻害薬によるFactor B開裂阻害

図2 Factor D阻害薬によるFactor B開裂阻害

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図3 Factor D阻害薬によるC3フラグメント陽性細胞数の減少

図3 Factor D阻害薬によるC3フラグメント陽性細胞数の減少

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図4 Factor D阻害薬によるaHUSの溶血抑制(修正Ham試験)

図4 Factor D阻害薬によるaHUSの溶血抑制(修正Ham試験)

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結論

Factor D阻害薬は、PNHおよびaHUS患者の第二経路の活性化を効率的に阻害した。
PNH型赤血球を用いたin vitro研究では、Factor D阻害薬は、C3フラグメントの蓄積を抑制した。
修正Ham試験は、aHUSの補体活性化阻害を検討するモデルとして有用だと考えられる。
今回検討した3種類のFactor D阻害薬のうちACH-4471を用いて、PNHおよび他の希少疾患に対する経口治療薬を開発する臨床プログラムが開始された。

監修者(西村先生)のコメント

Factor D低分子阻害薬は、Factor Bに結合することにより、補体活性化第二経路の増幅経路を抑制する。エクリズマブはPNHやaHUSに極めて有効な薬剤であるが、PNHにおいてはエクリズマブ導入後の血管外溶血の顕在化やエクリズマブ反応不良のC5遺伝子多型等の問題が指摘されている。本薬剤は、PNHおよびaHUS患者の第二経路の活性化を効率的に阻害し、PNH型赤血球を用いたin vitro試験において、C3フラグメントの蓄積を抑制した。さらに、経口投与も可能であることから、エクリズマブの抱える問題を克服し、優れた利便性も期待される。しかしながら、第二経路における増幅経路の抑制のみで実際に生体内で溶血を十分に抑制できるのか、未知の有害事象はないのか等の検証が必要であろう。また、今回示された修正Ham試験は、早期の確定診断が容易でないaHUSの診断の一助となり得るかもしれない。

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