ASH2015速報

Poster Session 1209

オランダ人の発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)患者のC5遺伝子多型、非アジア人起源のエクリズマブ抵抗性はin vitroでCoversinに感受性を示す
C5 Polymorphism in a Dutch Patient with Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria (PNH) and No Asian Ancestry, Resistant to Eculizumab, but in Vitro Sensitive to Coversin

Petra Muus, et al.
Department of Hematology, Radboudumc, Nijmegen, Netherlands

Petra Muus先生
Petra Muus 先生

背景

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は稀な後天性骨髄疾患である。血球のGPIアンカー型蛋白が欠損し、赤血球上の補体制御因子であるCD55およびCD59の機能が障害され、補体の活性化が制御できなくなり血管内溶血が進行する。さらに溶血に伴って、血栓症のリスクが上昇する。エクリズマブは補体C5を標的としたヒト化モノクローナル抗体で、C5aの生成を阻害し、補体活性化の最終産物である補体複合体の生成を阻害する。臨床ではPNHと非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の治療に用いられる。エクリズマブは溶血を抑制し、症状とQOLを改善し、PNH関連の血栓症の頻度を低下させる。しかし、エクリズマブの投与によって臨床症状は改善しても反応性が不良で、溶血の指標であるLDHが高値を持続する患者が存在する1)。これはC5の遺伝的変異によるもので、エクリズマブが結合しにくいC5多型の保有例は日本人では約3.5%、中国漢民族では約1%存在する。本研究は、エクリズマブへの反応性不良の非アジア人症例についての最初の報告である。

臨床経過

この症例は30歳の白人男性で、PNHと診断され(顆粒球クローン90%)、エクリズマブを投与された。重度の溶血を呈し、LDHは正常上限の3~6倍、最高値は17倍で、一過性の腎不全、極度の疲労、勃起不全を呈したが、血栓症や骨髄障害は認められなかった。エクリズマブは最初の4週間は600mgを7日ごとに、5週目からは900mgを2週ごとに静注した。その結果、症状は改善し、疲労は軽減され、勃起不全もあまり経験しなくなった。しかし臨床検査では、溶血マーカーが高値で持続した(図1)。PNHの他に溶血の原因は除外され、エクリズマブ静注後の血中濃度測定では、トラフ値は100µg/mLを超えており、投与量不足も否定された。患者の血清を採取し、抗体で感作されたニワトリ赤血球を用いて溶血性を調べたところ、溶血活性は高く、溶血が持続していることが示された。抗ヒト蛍光抗体を用いた検討から、抗エクリズマブ抗体の産生も否定された。LDHが正常上限値の9倍に上昇し、ヘモグロビン尿が目視できた時点で、エクリズマブ投与を中止した。エクリズマブを中止しても、溶血はそれ以上進行せず、臨床症状も変化しなかった。

C5遺伝子多型解析

C5領域のDNA解析を行ったところ、不均一なミスセンス変異(c.2653C>A)が認められ、p.Arg885Ser変異が生じていると推測された。また、患者の父親(健常者)から同一の変異が同定された。

Coversinの特性

Coversinはダニ唾液から採取した蛋白由来の遺伝子組換え蛋白で、
C5に高親和性(Kd 1.85×10-8で結合する。CoversinはC5がC5転換酵素によってC5aとC5bに解離するのを阻害し、補体複合体の形成を抑制する。CoversinのC5結合部位はエクリズマブ結合部位とはかなり離れている。

CoversinのC5活性阻害作用(in vitro

血清を用いて、CoversinによるC5活性化阻害作用を検討したところ、Coversinは濃度依存性に補体複合体の形成を阻害した(図2)。

図1 LDHの推移

図1 LDHの推移

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図2 Coversinとエクリズマブの補体複合体形成抑制作用

図2 Coversinとエクリズマブの補体複合体形成抑制作用

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結論

非アジア人起源の白人種で、C5遺伝子多型を原因として、エクリズマブに抵抗性を示した症例について検討した。エクリズマブ結合部位から離れた部位に結合するCoversinは、in vitroでC5の開裂を阻害した。Coversinは、C5遺伝子多型を原因とするエクリズマブ抵抗性の患者に対して有用な代替療法になると考えられる。

Reference
1) Nishimura J, et al. N Engl J Med 2014; 370: 632-639

監修者(植田先生)のコメント

Coversinは多数開発途上にある新規抗補体薬の一つで、エクリズマブ同様補体C5を標的にする。2週おきに点滴が必要なエクリズマブに対し、Coversinは1日1回の皮下注射での投与が可能であり、将来的にインスリン製剤の様に自己管理での投与が可能となれば、来院などによる患者負担の軽減が期待できる。また薬剤の改良により週1回、あるいはより長期の投与間隔ができるようにも開発途上にあり、さらなる利便性が得られる可能性もある。一方でエクリズマブ同様C5レベルでの補体活性を抑制することから、血管外溶血の問題が顕在化する患者も出現すると考えられる。またダニの唾液由来のタンパク質であることから、その免疫原性が問題となる可能性もある。著者らによるとサルへの1ヵ月に及ぶ長期投与試験において、約28日時点で60~70%のサルにCoversinへの抗体出現が確認されたものの、非中和抗体であったとのことである。ヒトでは1名において58日間投与されたが、出現したのは同様に非中和抗体であったとのことである。今後長期投与における安全性など、さらなる評価が必要と考えられる。

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