ASH2013速報

ASH2013 Oral 594

Complement blockade with a C1 esterase inhibitor (human) in paroxysmal nocturnal hemoglobinuria

Amy E. DeZern et al.
Oncology, Johns Hopkins University, Baltimore, MD, U.S.A.

Amy E. DeZern 先生
Amy E. DeZern 先生

背景

PNHは、溶血性貧血、骨髄不全および血栓症を特徴とする造血幹細胞疾患である。PNH造血幹細胞は、GPIアンカーの生合成に必須な遺伝子PIG-Aの後天性変異により、補体制御因子であるCD55およびCD59を含むGPIアンカー型膜蛋白を欠損し、この欠損細胞がクローン性に拡大することによってPNHは発症する。元来、CD55はC3変換酵素の崩壊を促進することで、またCD59は終末補体複合体(MAC)の形成を阻害することで、自己細胞膜上での補体反応の進行を抑制的に制御しているが、これらの因子を欠損したPNH赤血球は補体活性化に伴い容易に破壊される。

エクリズマブは補体C5に対するモノクローナル抗体であり、C5と特異的に結合し、MAC形成を阻害することでCD59欠損を機能的に代償している。即ち、PNHにおける補体による血管内溶血を阻止し、血栓症のリスクを軽減する。しかしながら、エクリズマブはCD55の機能は代償できないため、PNH血球膜上にC3が蓄積し、血管外溶血が顕性化する。そのため、エクリズマブの投与にもかかわらず、貧血が十分に改善しないケースが散見される。
C1エステラーゼインヒビター(C1 INH)は内因性ヒト血漿蛋白で、C1rおよびC1sへ結合することにより古典経路およびレクチン経路を阻害する。米国ではC1 INH欠損および機能不全による遺伝性血管浮腫患者における血管浮腫発作予防に対し血漿由来C1 INH(Cinryze®)が認可されている。また、C1 INHはex vivoにおいてC3bに結合しC3bBb複合体の形成を阻害することによりPNHにおける溶血を抑制するとも報告されている。そこで演者らは、エクリズマブ加療下のPNH患者において、C1 INHが第二経路を阻害しPNH血球上へのC3蓄積を阻害できるか否かについて検討した。

方法

結果

  • 患者背景:
    ⁃ 性別・年齢:男性2例,女性3例(18~55歳)
    ⁃ typeⅢクローン:5.9~98.7%
    ⁃ typeⅡクローン:0.8~53%
  • C1 INHの濃度依存的(0~12U/mL)に溶血が抑制され、6U/mLで完全に抑制された(図1)。C1 INHによる溶血抑制はtypeⅡおよびtypeⅢPNH血球でともに認められた。
  • 6U/mL C1 INH存在下において、C1 INHは第二経路を阻害することによりPNH血球に対するC3断片の沈着を顕著に抑制した。

結論

図1.C1INHは濃度依存性にPNH赤血球の補体溶血を抑制する

図1.C1INHは濃度依存性にPNH赤血球の補体溶血を抑制する

クリックすると拡大します。

監修者(川口先生)コメント

エクリズマブで貧血改善が不十分な理由の一つとして、PNH赤血球膜上にC3bが蓄積し、血管外溶血が顕性化することが指摘されている。遺伝性血管浮腫の治療薬として既に臨床応用されているC1 INH製剤が、このエクリズマブの欠点を克服できる可能性があることを実験的に示した興味深い報告である。筆者らは、補体第2経路を活性化する酸性化血清試験を応用して、C1 INHの濃度依存的に溶血が抑制され、同時にPNH赤血球へのC3b沈着も防ぐことができることを証明している。しかしながら、実験で用いられたC1 INHの有効濃度は、臨床投与で得られる血中濃度に比べて高すぎるとの指摘もあり、 果たして、エクリズマブの欠点を補完する薬剤として臨床応用可能かどうかは、今後の検討課題である。

ページの上部へ戻る