ASH2013速報

Poster Presentation 2466

Red Cell Complement Loading In PNH Patients On Eculizumab Is Associated With a C3 Polymorphism Which Influences C3 Function, Predicts For Increased Extravascular Hemolysis and Provides a Rationale For C3 Inhibition

Praveen Kaudlay et al.
St James's University Hospital, Leeds, United Kingdom


Praveen Kaudlay 先生

背景

エクリズマブは、補体カスケードの終末補体複合体の構成因子であるヒトC5を阻害することによって血管内溶血を著明に抑制するが、補体カスケードの上流の主要構成因子であるC3には影響を及ぼさない。従って、多くの患者では、エクリズマブにより血管内溶血を免れたPNH赤血球の膜上には、恐らくCD55 欠損のためにC3が蓄積し、そのオプソニン作用によりPNH赤血球が脾臓で補足除去され、いわゆる血管外溶血が顕性化する。臨床的にも、エクリズマブ治療中にもかかわらず貧血や高ビリルビン血症など溶血所見があまり改善せず、なかには輸血が依然として必要な場合もある。

目的

このようなエクリズマブ導入で明らかになったPNHの臨床的特徴とC3遺伝子多型との関連を明らかにし、さらにC3の活性化を阻害する小分子によるC3沈着に対する影響を検討する。

方法

  • エクリズマブ投与下のPNH患者119例を対象に、フローサイトメトリーによりC3蓄積を解析し、血管外溶血の臨床指標として、ヘモグロビン(Hb)、ビリルビンのレベル、網状赤血球数を検討した。
    89例は、C3遺伝子(rs2230199)の機能性一塩基多型(SNP)について、遺伝子型を同定した。具体的には、電気泳動的に遅いSアレル(102R)と速いFアレル(102G)を、PCR増幅産物のHhaI制限酵素切断によって識別した。
  • C3の活性化を阻害する小環状ペプチドAPL-1と、その抱合体で生物活性が増強され半減期の長いAPL-2について、赤血球溶解及びin vitroのC3沈着の阻害効果をフローサイトメトリーにより検討した。

結果

  • 投与期間中に1回以上輸血を必要とした患者は全体で46.2%であり、C3のf/f 遺伝子型を有する患者は、s/s、f/s遺伝子型を有する患者に比べて、輸血の頻度が有意に低かった(図1、それぞれp<0.01)。
  • ビリルビン値はC3のs/s遺伝子型を有する患者で、f/s、f/f遺伝子型を有する患者に比べて有意に高く(それぞれp<0.01)、血管外溶血が有意に高率であることが示された。網状赤血球数、Hb値には、遺伝子型による有意な相違は認められなかった。
  • フローサイトメトリーにより、エクリズマブ投与患者110例のPNH赤血球にC3を検出した(平均19.8%)。C3沈着はSアレルを有する患者で有意に高率で、s/sのホモ接合体が最も高かった(図2)。
  • C3阻害薬のAPL-1およびAPL-2は、in vitroでの赤血球上のC3沈着を有意に阻害した。APL-2 50mg/mlは、エクリズマブによるC3沈着を消失させた。

図1. f/f遺伝子型の患者は、輸血の必要性が極めて低い

図1. f/f遺伝子型の患者は、輸血の必要性が極めて低い

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図2. C3 Sアレル(+)患者(f/s、f/f)では、Sアレル(-)の患者に比べて、PNHタイプ赤血球(a)も、正常赤血球(b)も、C3が蓄積しやすい

図2. C3 Sアレル(+)患者(f/s、f/f)では、Sアレル(-)の患者に比べて、PNHタイプ赤血球(a)も、正常赤血球(b)も、C3が蓄積しやすい

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結論

かなりの頻度のエクリズマブ投与患者が血管外溶血を生じ、これは赤血球上のC3沈着の程度と正相関を示した。C3遺伝子多型は、PNHおよび非PNH赤血球上のC3沈着と有意に関連し、血管外溶血のパラメータと相関を示した。PNHで多く見られたC3のSアレルは、C3蓄積やビリルビン高値と有意な関連が見られた。C3阻害薬のAPL-1およびAPL-2は、in vitroでPNH赤血球を保護しC3沈着を阻害することから、安全に長期投与できるのであれば、血管外溶血を有意に減少するものと期待される。

監修者(川口先生)のコメント

エクリズマブが普及し、期待通りに貧血が改善しない症例を経験することがある。主な原因は、①造血不全、②相対的薬効低下(breakthrough hemolysis)、③血管外溶血の顕性化のいずれか、またはその複合要因とされている。その中でも、血管外溶血はエクリズマブ時代の新たな臨床課題でもある。C3遺伝子多型がC3蓄積に個体差をもたらし、かつ臨床所見と相関することや、その蓄積を小分子で抑制できることから、血管外溶血の病態理解や治療の可能性を考える上で大変興味深い発表であった。

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