ASH2012速報

ASH2012 Oral

PNH患者由来の自己反応性T細胞は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)を特異的に認識する

Lucia Gargiulo, et al. Centre for Haematology, Imperial College London, London, United Kingdom


Lucia Gargiulo 先生

サマリ

本研究では、PNHにおける臨床症状の背後にある基礎病態はT細胞媒介型攻撃であり、PNHではPIG-A 変異クローンがT細胞媒介型攻撃を逃れるという仮説を検証した。PNH患者ではCD1d拘束性GPI特異的CD8陽性T細胞が認められる。iNKT細胞同様、反応性T細胞にもinvariant鎖が検出され、CD1dにおけるGPIの認識に必要となる可能性が示唆される。

背景

PNHにみられる血管内溶血および重篤な後天性易血栓性は、赤血球上のGPI結合型タンパク質CD55/CD59の欠損による補体活性化に対する感受性増加の結果であるのに対し、汎血球減少は骨髄不全のあらわれと考えられる。これらの事実は、PNHと再生不良性貧血との強い関連と相まって、PNHにおける基礎病態はPIG-A 変異クローンがT細胞介在型攻撃を逃れ、増加するという仮説に至る。本研究では、PIG-A 変異クローンが、CD1dによって提示されると予想されるGPI分子そのものを標的にする自己免疫T細胞の攻撃から逃れるという仮説を検証した。

方法

  • PNH患者由来および健常人由来のCD8陽性T細胞を、トリパノソーマ由来GPI(t-GPI)もしくは溶媒でパルスしたC1R-CD1d B細胞株もしくはCD1d陰性CR1 B細胞株と共培養し、インターフェロン-γ(IFNG)産生反応性T細胞の有無をELISPOT法により検討した。
  • 抗原提示細胞(APC)にC1R-CD1d 細胞株に加え、GPI産生能を欠いたGPI- C1R-CD1d細胞株を用いた実験系によりIFNG産生反応性T細胞を細胞内染色およびフローサイトメトリを用いて計測した。
  • invariant鎖TCRVα18を有する制御性糖脂質特異性T細胞(iNKT細胞)の発達と機能発現にはCD1dが必要となることから、CD1d拘束性GPI特異的T細胞にもinvariant鎖が存在するか否かを検討した。

結果

  • t-GPIでパルスしたC1R-CD1d細胞の存在下では、反応性T細胞は1日目、7日目、14日目にPNH患者で有意に増加したが、健常人対照では増加しなかった(図1)。CD1d拘束性を検証するために、同様の実験をCD1d陰性C1R細胞でおこなったが、T細胞の反応性の増強は認められなかった。
  • APCがGPI陽性C1R-CD1dの場合、PNH患者で反応性CD8陽性T細胞の発現頻度が増加し、健常人対照では増加しなかった(図2)。また、APCがGPI陰性C1R-CD1dの場合は、それだけでは反応性CD8陽性T細胞の発現頻度が増加しなかったが、外因性ヒトGPIの追加により発現頻度は高くなった。
  • フローによってソートした2量体CD1d/GPI陽性T細胞を用いた包括的T細胞受容体(TCR)α鎖レパトア解析により、新規invariant鎖TCRVα21Jα31(9/9クローン)が解析した3例中1例で同定された(図3)。さらに、次世代シークエンサーを用いたTCRVα21ファミリーのレパトア解析では、健常人対照ではinvariant鎖TCRVα21Jα31は存在するものの8例中5例で拡大していないのに対し、PNH患者では10例中5例で有意に拡大していた(図4)。

図1.PNH患者におけるGPI特異的T細胞の高い発現率

図1.PNH患者におけるGPI特異的T細胞の高い発現率

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図2.内因性GPIに対するT細胞の反応性

図2.内因性GPIに対するT細胞の反応性

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図3.PNH患者のCD1d-GPIダイマー陽性T細胞で検出された新規invariant鎖TCRVα21Jα31

図3.PNH患者のCD1d-GPIダイマー陽性T細胞で検出された新規invariant鎖TCRVα21Jα31

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図4.PNH患者における新規invariant鎖mRNAの高い発現率

図4.PNH患者における新規invariant鎖mRNAの高い発現率

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結論

PNH患者では健常人対照とは異なり、CD1d拘束性GPI特異的CD8陽性T細胞の増加が認められた。PNH患者の反応性T細胞に検出された新規TCRα鎖TCRVα21は、CD1dによるGPIの認識に必要と考えられ、これらの反応性T細胞がPNHの骨髄不全におけるPNHクローンの選択的拡大に関与している可能性が示唆された。

監修者のコメント

PNHにおける臨床症状はPNHクローンの拡大にともなって発現するが、PNHクローンの拡大は造血幹細胞におけるPIG-A変異のみでは説明できず、GPI陰性細胞が免疫学的攻撃から逃れることでPNHクローンが相対的に増加し、さらになんらかの付加的な異常が加わることで最終的に骨髄、末梢血ともにPNH細胞に凌駕されると広く理解されている。本発表は、新規invariant TCRα鎖を有するGPI-AP特異的CD1d拘束性T細胞がPNH患者で増加していることを、証明したものである。 これらの結果は、PNH細胞が免疫学的攻撃を逃れる機序として、PNH細胞ではGPI産生能が消失するので、GPI特異的CD1d拘束性T細胞による免疫学的攻撃に対して、PNH細胞が障害を逃れるという仮説を示唆している。すなわちGPI糖脂質自体が自己抗原として働くとする説であるが、実際にGPIがCD1dに結合して、特定のTCRに提示されるのかさらなる解析が待たれる。

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