ASH2012速報

ASH2012 Oral 370

PNHにおける新規補体修飾剤:C3転換酵素ペプチド・タンパク質阻害剤はin vitroにおける赤血球表面への補体C3の沈着およびそれに続く溶血を阻止する

Antonio M. Risitano, et al. DBBM, Hematology, Federico II University, Naples, Italy


Antonio M. Risitano 先生

サマリ

PNHにおいて抗C5治療はPNH赤血球上にC3の沈着をもたらし、C3介在性血管外溶血を引き起こすため、抗C5治療の貧血改善におけるベネフィットは限定的である可能性がある。より上流の補体カスケードの阻害について、本研究では新規C3転換酵素阻害剤による補体活性阻害が効果的にPNH赤血球へのC3の沈着およびそれに続く溶血を阻害することが確認された。

背景

PNHは複雑な血液学的疾患であり、膜表面補体制御蛋白CD55やCD59が欠損した血球の拡大を特徴とする。PNH赤血球は補体活性化により膜障害複合体(MAC)介在性血管内溶血をきたす。抗C5抗体であるエクリズマブはin vivoにおける血管内溶血の抑制によりPNH患者において著明な臨床的ベネフィットをもたらすことが示されている。しかしながら、演者らはこれまでにエクリズマブ治療はPNH赤血球上にC3の進行性沈着をもたらし、C3介在性の血管外溶血を引き起こすため、抗C5治療の貧血改善におけるベネフィットは限定的である可能性を示した。したがって、より上流における補体カスケードの阻害が妥当と考えられる。演者らはこれまでにCD21/H-因子(FH) 融合タンパク質TT30が、効果的にPNH赤血球における溶血およびC3沈着を防止することを報告した。

方法

C3転換酵素レベルで作用する3剤の新規補体阻害剤(コンプスタチン誘導体Cp30/Cp40およびmini-FH)の評価を行った。

薬剤

  • コンプスタチン誘導体であるCp30/Cp40はコンプスタチン同様、C3およびC3bに結合し、全ての主要補体活性経路(古典的経路、代替経路およびマンノース/レクチン経路)を阻害するが、コンプスタチンに比べ、活性および安定性の強化が図られている。
  • Mini-FHは工学的に作成されたタンパク質で、FHの補体制御ドメインと表面認識ドメインを結合させたものであり、C3b、iC3b、C3dへの親和性とdecay acceleration activity およびcofactor activityを有する。古典的経路、マンノース/レクチン経路に影響を与えず、代替活性経路の活性化および増幅を選択的に阻害する。

対象と方法

  • PNH患者から採取した赤血球を、Cp30、Cp40、mini-FHの不在下および存在下で、酸性化による代替経路活性化血清中でインキュベートした。
  • 溶血およびC3活性化と赤血球上への沈着の評価は、抗C3抗体、抗CD59抗体を用いたフローサイトメトリにより行った。

結果

  • Cp30、Cp40とも用量依存性の溶血阻害作用を示す(図1)とともに、生存赤血球上へのあらゆるC3成分の沈着を阻害した(図2)。
  • 同様に、mini-FHも用量依存性の溶血阻害作用(図1)および、生存赤血球上のC3成分の沈着を阻害した(図3)。

結論

監修者のコメント

抗C5治療薬であるエクリズマブが開発され、PNH溶血のみならず多くの関連症状が改善し、PNH患者の生活は一変した。その一方で、C3介在性の血管外溶血という新たな病態が出現し、症例によっては臨床上の問題となっている。本研究ではより上流の経路非特異的あるいは経路特異的C3の阻害がともにC3沈着およびC3介在性血管外溶血の抑制に有効である可能性が示されたが、C3レベルで補体を抑制することは、再発性感染症や免疫複合体病などの発症リスクを伴う。今後、in vivo研究および臨床開発を通じ、それぞれの補体阻害剤のリスク・ベネフィットの慎重な比較検討が待たれるところである。

図1.C3転換酵素阻害剤3剤の比較:コンプスタチン誘導体およびmini-FHの用量反応曲線

図1.C3転換酵素阻害剤3剤の比較:コンプスタチン誘導体およびmini-FHの用量反応曲線

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図2.Cp30およびCp40によるPNH赤血球のC3オプソニン化に対する効果:C3成分沈着の抑制効果

図2.Cp30およびCp40によるPNH赤血球のC3オプソニン化に対する効果:C3成分沈着の抑制効果

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図3.Mini-FHによるPNH赤血球のC3オプソニン化に対する効果:C3成分沈着の抑制効果

図3.Mini-FHによるPNH赤血球のC3オプソニン化に対する効果:C3成分沈着の抑制効果

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図4.PNHに対する補体阻害によるアプローチ

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