Tommaso Rondelli, et al. Cancer Genetics and Gene Transfer Core Research Laboratory, Instituto Toscano Tumori, Firenze, Italy
PNHにおいて、補体C5に対するモノクローナル抗体エクリズマブ投与による貧血の改善の程度は患者ごとによって大きく異なる。この現象は赤血球膜上のCR1発現量に影響を与える遺伝子多型と関連する可能性が示された。
C5に対する特異的なモノクローナル抗体であるエクリズマブは、PNHにおける血管内溶血を抑制することによりPNHでみられる種々の臨床症状を顕著に改善する。しかしながら、ヘモグロビンの改善度は患者ごとに大きくばらつき、輸血依存から抜け出せない患者がいることが報告されている。そこで演者らは、この現象が補体関連遺伝子の多型に起因していると仮説を立て、補体C3および補体受容体の一つであるCR1の遺伝子多型と貧血の改善の程度に相関がみられるか解析を行った。
CR1は、C3bおよびC4bに結合することによるC3およびC5変換酵素の分解の促進、並びに免疫複合体の除去および貪食に重要な役割を果たしている。したがって、HindIII RFLPによるRBC膜上におけるCR1発現量の違いにより、補体第二経路の制御機能が変化すると考えられる。実際に、エクリズマブが投与されたほとんどのPNH患者のPNH型赤血球にはC3が沈着しており、その結果、血管外溶血がもたらされると推測されている。
以上の考察から、H/LおよびL/L遺伝子型に伴うRBC膜上のCR1の低発現がエクリズマブ治療中のPNH患者における、より強い血管外溶血の原因となるものと考えられる。
本知見によって、CR1 HindIII RFLPがエクリズマブの貧血改善効果を予測する因子として使用可能であることが示唆された。L/L遺伝子型を有するPNH患者では、他の遺伝子型のPNH患者に比べ、エクリズマブ治療中に輸血を必要とする率が6.7倍高いことが考えられる。しかし、輸血依存性の克服のみがエクリズマブ治療のベネフィットではなく、これらの患者においてのエクリズマブの有効性を全て否定するものではない。
<山本 正樹>
エクリズマブ治療では臨床反応にバラツキがみられることが知られており、治療反応性予測因子の同定は非常に重要である。臨床反応のバラツキの原因としてはこれまで骨髄不全、炎症などの基礎疾患のほか赤血球のクローンサイズなどが示唆されていたが、本研究では骨髄不全を除外したうえで、補体受容体1(CR1)遺伝子多型を検討し、低反応予測因子として HindIII RFLPが同定された。この知見は、今後、エクリズマブ治療の適正な患者同定に重要な手掛かりを提供するものと考えられるが、欧米例とは異なり本邦例のほとんどが骨髄不全を呈しており、今回の結果がそのまま本邦例に適用されるか今後検討する必要がある。
NPO法人「PNH倶楽部」は、発作性夜間血色素尿症(PNH)患者と家族の会です。サポートセンター、医療費助成基金、活動等についての情報が掲載されています。