PNHにおけるエクリズマブ治療に対する治療反応性の予測因子
Amy E. DeZern, et al. Oncology, Johns Hopkins University, Baltimore, MD, USA
サマリ
エクリズマブに対する治療反応性にはバラツキが認められるため、治療反応性の予測因子の同定は重要である。本研究ではPNH赤血球クローンが減少した患者でヘモグロビン(Hb)値が正常化し、Complete response(CR)の予測を可能とすることが示唆された。また、従来の臨床試験における非適応患者を含めた大部分のPNH患者において、エクリズマブが有効である可能性が示された。
背景
PNHは稀なクローン性造血幹細胞疾患であり、溶血性貧血、骨髄不全および易血栓性を臨床症状とする。エクリズマブはヒト化モノクローナル抗体であり、これまでに貧血の改善効果、血管内溶血の抑制効果、血栓症リスクの抑制効果およびQOLの改善効果が認められている。しかしながら、エクリズマブに対する治療効果、特にHb値の回復にバラツキがみられるため、今回PNHクローンが検出された患者全例について後方視的に解析した。
方法
- 2005年1月~2012年3月の期間にPNHクローンが検出された患者全例を対象にした。PNHの診断は末梢血フローサイトメトリによる計測でGPI-AP欠損顆粒球数≥0.1%とし、PNH患者は国際PNH専門家会議(IPIG)ガイドラインのPNH病型分類で1) 古典的PNH(PNH)、2)骨髄不全型PNH(PNH/AA)および3) 溶血所見は明らかでないPNHタイプ血球陽性の骨髄不全症PNH(PNHsc)に分類した。全被験者はエクリズマブ投与開始に先立ち、髄膜炎に対するワクチンを投与した。全期間を通じ、適応患者は濃厚赤血球輸血を受けた。
- エクリズマブ治療(導入用量600mg/7±2日x4;7±2日後維持用量900mg、その後900mg/14±2日)におけるCRは、年齢・性別におけるHb値が6ヵ月以上正常化した非輸血依存例で、血栓症や平滑ジストニアを含むPNH症状が認められず、LDH値が基準値上限の1.5倍未満(LDH< x 1.5ULN)の患者とした。A good partial response(GPR)は、前治療からの輸血量の低下がみられ、LDH< x 1.5ULNで血栓症が認められない患者とした。また、A suboptimal response(SR)は、輸血の必要がありPNH症状が持続する患者とした。
結果
- エクリズマブ治療を受けたPNH患者30例のうち、21例(70%)が古典的PNH、9例(30%)がPNH/AAであった。30例中27例でベースラインLDH値が x 1.5 ULNを超えており、治療開始以前に輸血を受けていない患者は8例のみであった。17例がSHEPHERD試験適格基準(年齢 > 18歳、診断からの期間 > 6ヵ月、PNH赤血球クローン > 10%、過去2年間に少なくとも1回の輸血、LDH < x 1.5 ULN、血小板数 > 30,000/mm3および絶対好中球数 500/uL)を満たし、13例が血小板数30,000/mm3未満(7例)あるいは赤血球輸血非依存性(6例)で不適格と考えられた。
- CRは4例(13.3%)、GPRは16例(53.3%)、SRは10例(3.3%)で認められた。赤血球クローンサイズはCR患者全例で治療前の> 45%から治療後には< 15%に減少した(図1)。また、臨床反応性による治療前後の赤血球クローンサイズの比較では、GPR患者で治療後にクローンサイズの増加が認められた(図2)。
- 一過性ブレイクスルー血管内溶血大発作が9例で認められた。
- 古典的PNHでSRと判定されたPNH患者2例では、自己免疫疾患に対する通常用量によるエクリズマブ投与では対応が難しい、再発あるいはブレイクスルー溶血に対する用量調節が必要であった。
- PNH患者30例のうち骨髄不全のために骨髄移植を施行した3例では、いずれも血栓症予防目的でエクリズマブが投与されており、移植への移行が容易となった。
図1.Complete response例における経時的な赤血球クローンサイズの減少
図2.治療前後の赤血球クローンサイズの治療反応性による比較
結論
エクリズマブによる終末補体阻害は古典的PNH患者の大部分に有効である。エクリズマブに対するHb値の反応性にはバラツキがあり、背景にある骨髄不全の度合い、炎症および治療後のPNH赤血球クローンサイズなどに依存する可能性が考えられる。Hb値の正常化はPNH赤血球クローンサイズの減少の予測因子となる可能性がある。
血小板減少症、重篤な骨髄不全の合併の有無にかかわらず、PNHクローンサイズが大きい患者に認められる血栓症はエクリズマブの適応と考えるべきである。なお、これらの知見の妥当性は今後、国際PNHレジストリーで検証されるべきものである。
<大里 真幸子>
監修者のコメント
本報告により従来の基準で不適格と考えられる患者でも、エクリズマブによる終末補体阻害が有効である可能性が示された。エクリズマブに対する治療反応性のバラツキには骨髄不全、炎症、C3の蓄積などの問題が関与し、複雑な様相を呈する。したがって、ここに報告された知見は、今後、より多くの症例で検証すべき問題と考えられる。また、これまでのエクリズマブ治療ではPNHクローンは減少せず、むしろPNH赤血球は増加するという報告に対し、Hb値の正常化がみられたCR例でPNH赤血球の減少が報告されたことは注目に値する。このPNHクローンの減少が、エクリズマブ治療前からみられたものなのか、治療によってもたらされたものなのかは現在のところ不明である。今後これらのクローンがさらに減少し、自然寛解に至るのかを見守る必要がある。