ASH2012速報

Poster Presentation 1273

溶血所見および臨床症状を呈するPNH患者における
血栓塞栓症リスク

Jong-Wook Lee, et al. Seoul St. Mary’s Hospital,
The Catholic University of Korea, Seoul, South Korea


Jong-Wook Lee 先生

サマリ

PNHにおける腹痛、胸痛、呼吸困難およびヘモグロビン尿などの臨床症状は患者のQOLを低下させるだけでなく、血栓塞栓症(TE)リスクの上昇に関与している可能性がある。本研究では、明確な溶血所見(LDH値(LDH≥1.5 ULN))に加えて腹痛、胸痛などの臨床症状を呈するPNH患者では、溶血所見のみの患者よりTE発症リスクが高いことが示された。

背景

PNHは稀な致死性疾患であり補体介在性の慢性溶血を特徴とする。慢性的な溶血は、PNHにおける末端臓器の損傷や早期死亡を引き起こす血栓塞栓症(TE)リスクの増加と関連している。また、診断時におけるLDH≥1.5 ULNは、PNH患者における断片的な溶血所見のマーカーとなる。そこで本研究では、LDH≥1.5 ULNで示されるLDH高値および腹痛、胸痛、呼吸困難あるいはヘモグロビン尿のうちのいずれかを呈するPNH患者および溶血所見のみを呈する患者におけるTEリスク増加の有無を比較検討した。

方法

  • 過去41年間に韓国PNHレジストリーに登録されたPNH患者301例のうち、診断時のLDH値が存在する244例を対象とした。
  • 診断時LDH≥1.5 ULNを呈する患者で個々の臨床症状の有無とTE発症率の関連をロジスティック回帰分析により解析した。
  • LDH≥1.5 ULNに加えて複数の臨床症状とTE発症率の関連をオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)にて評価した。

結果

  • TE既往例の診断時のLDH中央値は、非TE既往例に比べ有意に(p=0.05)高かった(表1)。
  • LDH≥1.5 ULNの患者の割合は、非TE既往例が72%であるのに対し、TE既往例では96%と有意に高かった(p<0.001)(表1)。診断時の年齢、骨髄不全の既往、PNH顆粒球のクローンサイズおよび血小板数には、TE既往例および非既往例間に有意差は認められなかった(表1)。
  • 単変量解析では、診断時にLDH≥1.5 ULNを呈した患者は診断時にLDH<1.5 ULNを呈した患者に比べ、TEリスクが8.57倍高いことが示された(OR 8.57; p<0.001)(図1)。
  • 臨床症状の程度は、ヘモグロビン尿(59%)、腹痛(49%)、呼吸困難(41%)および胸痛(13%)であった。臨床症状を呈した患者の大部分が診断時にLDH≥1.5 ULNを呈した。多変量解析では、診断時にLDH<1.5 ULNを呈した患者に比べ、診断時にLDH≥1.5 ULNを呈した患者では臨床症状の有無に関わらずTEリスクが7倍高いことが示された(p=0.013)(図2)。
  • 個々の症状の多変量解析では、各臨床症状とLDH≥1.5 ULNを呈する患者はLDH≥1.5 ULNのみ呈する患者に比べ、TEリスクがそれぞれ有意に増加した(図2)。

表1.血栓塞栓症既往例、非既往例の患者背景

表1 血栓塞栓症既往例、非既往例の患者背景

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図1 診断時のLDH値が高い患者で血栓塞栓症発症率は有意に高い

図1.診断時のLDH値が高い患者で血栓塞栓症発症率は有意に高い

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図2.LDH高値と臨床症状の合併はさらに血栓塞栓症リスクを増加

図2.LDH高値と臨床症状の合併はさらに血栓塞栓症リスクを増加

±vs. LDH < 1.5 ULN
* vs. LDH < 1.5 ULNのみ

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結論

PNH患者における診断時のLDH≥1.5 ULNは、TEリスクを7倍に高める独立したリスク要因である。LDH高値に加え、腹痛、胸痛、呼吸困難あるいはヘモグロビン尿症などの臨床症状を呈する患者でTEリスクがさらに増加することが示された。コントロール不良な補体活性化および溶血の進行によって臨床症状は顕性化するため、症候性PNH患者はTEおよび死亡に対する高いリスクを有することを認識すべきである。
本結果はPNH患者に対する治療の早期介入の重要性および、LDH 高値症例における慎重なモニタリングの必要性を示すものである。

<大里 真幸子>

監修者のコメント

レトロスペクティブな解析ではあるが、LDH高値症例に示される溶血及び腹痛、胸痛、呼吸困難、ヘモグロビン尿症などの臨床症状とTEリスクの関連を示す本研究の知見は、PNH患者に対する治療介入に新たな視点をもたらすものである。実際には多くの臨床的PNH患者がLDH≥1.5 ULNを呈しているため、臨床的症状を呈する患者に対しては慎重な経過観察と早期治療の検討の必要性を示唆するものである。

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