発作性夜間ヘモグロビン尿症の自然寛解:健康への回帰か悪性疾患への移行か?
Spontaneous Remission in Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria – Return to Health or Transition into Malignancy?
Department of Bacteriology and Immunology, University of Helsinki, Helsinki, Finland
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は後天性疾患で、血管内溶血、血栓症、骨髄不全を特徴とする。PIGA遺伝子の後天性変異により、血球表面の補体制御因子CD55およびCD59が欠損する。PNHの診断は、フローサイトメトリーを用いて血球表面のGPIアンカー型膜蛋白の有無を確認することにより行う。臨床経過はしばしば予測困難であり、治療の選択肢は限られている。見かけ上の自然寛解が生じることもあるが、そのなかには真の寛解ではなく、他の疾患への移行、特に悪性疾患の発現例が含まれていることもある。そこで本研究では、PNH患者の見かけ上の自然寛解について検討した。
フィンランドにおいて、1995年以降のすべてのPNH患者に対して全国調査を実施し、最長20年に及ぶ臨床経過を詳細に検討した。患者の医療記録は医療施設のデータベースから集め、赤血球および白血球のフローサイトメトリー解析データを収集した。寛解の基準はPNHの臨床兆候(血球減少、溶血、血栓症など)が認められず、フローサイトメトリーでPNHクローンが消失している場合(1.5%以下)とした。
10年以上の長期フォローアップを受けているPNH患者の一部に、自然寛解が見られることが以前より報告されている。自然寛解の頻度は諸報告によりまちまちであり、本ポスターに引用されているスペインからの30%、英国からの15%という高い発現率の報告がある一方で、2004年の本邦の造血障害班のまとめでは、およそ5%にとどまっている。自然寛解が起こる機序としては、PNH型血球を産生するPIGA遺伝子変異幹細胞が5〜20年で寿命を迎えるため、PNH型血球が消失することなどが推察されている1)。
本研究は、フィンランドのPNH患者106例のPNHクローンサイズの変化や、その後の臨床経過をretrospectiveに解析したものである。他の造血器悪性疾患を発症した場合にPNHクローンが消失することや、免疫抑制療法がPNHクローン消失に影響を及ぼすと考えられることなど、示唆に富む大規模スタディ報告であった。今後global規模で、さらに知見を集積していくことが求められる。
1)石山 謙,中尾 眞二.骨髄不全症におけるPNH型血球の消長.血液フロンティア2016; 26: 843-850
NPO法人「PNH倶楽部」は、発作性夜間血色素尿症(PNH)患者と家族の会です。サポートセンター、医療費助成基金、活動等についての情報が掲載されています。