EHA2016速報

Poster Session P629

発作性夜間ヘモグロビン尿症の自然寛解:健康への回帰か悪性疾患への移行か?
Spontaneous Remission in Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria – Return to Health or Transition into Malignancy?

Department of Bacteriology and Immunology, University of Helsinki, Helsinki, Finland

Kairemo Eva-Stina先生
Kairemo Eva-Stina 先生

背景・目的

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は後天性疾患で、血管内溶血、血栓症、骨髄不全を特徴とする。PIGA遺伝子の後天性変異により、血球表面の補体制御因子CD55およびCD59が欠損する。PNHの診断は、フローサイトメトリーを用いて血球表面のGPIアンカー型膜蛋白の有無を確認することにより行う。臨床経過はしばしば予測困難であり、治療の選択肢は限られている。見かけ上の自然寛解が生じることもあるが、そのなかには真の寛解ではなく、他の疾患への移行、特に悪性疾患の発現例が含まれていることもある。そこで本研究では、PNH患者の見かけ上の自然寛解について検討した。

対象・方法

フィンランドにおいて、1995年以降のすべてのPNH患者に対して全国調査を実施し、最長20年に及ぶ臨床経過を詳細に検討した。患者の医療記録は医療施設のデータベースから集め、赤血球および白血球のフローサイトメトリー解析データを収集した。寛解の基準はPNHの臨床兆候(血球減少、溶血、血栓症など)が認められず、フローサイトメトリーでPNHクローンが消失している場合(1.5%以下)とした。

結果

赤血球のフローサイトメトリー解析が行われた106例中、PNHクローンの消失(1.5%以下)は6例(5.7%)で認められた。
6例のうち2例はその後、白血病(急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病)を発症したが、4例は臨床的寛解状態にあった(図)。
診断から寛解までの期間中央値は12.5年(range 6~15年)であった。
白血病を発症した2例のPNH診断から白血病発症までの期間は26年と12年であった。
白血病を発症した2例のうち1例は白血病発症の3年前にCD59欠損クローンが消失し、もう1例ではPNHクローンが消失した年に白血病を発症した。
6例のCD59欠損赤血球のPNHクローンサイズ最大値の中央値は64%(range 30~91%)で、4例は溶血を伴う古典的PNHであった。全例が基礎疾患として再生不良性貧血を有していた。
治療薬の内訳は、シクロスポリンが3例、蛋白同化ステロイドが3例、ステロイドが3例で、1例は抗ヒト胸腺免疫グロブリン(ATG)と顆粒球増殖因子が投与されていた。重度の輸血依存症例はいなかった。
免疫抑制療法はPNHクローン消失に影響を及ぼしたと考えられた。

考察

スペインと英国からの報告では自然寛解の発現率はそれぞれ30%と15%とされているが、どちらも患者背景の詳細は不明で、寛解基準も定義されていなかった。
自然寛解の機序としては、PNHクローンの寿命が尽き骨髄で正常幹細胞が再増殖することが一つの仮説として挙げられる。また、PNHクローンが免疫的に拒絶されることや、補体の攻撃によるPNHクローンの減少、PNHクローンに対する抗体産生(特に輸血後)によるCD59欠損細胞の減少などが考えられている。

図 自発的寛解4例のPNHクローンサイズ、LDHの推移

図 自然寛解4例のPNHクローンサイズ、LDHの推移

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結論

今回の検討では、PNH患者の自然寛解の頻度は高くなく、真の寛解は約4%にみられていた。
PNHクローンの消失は、健康への回帰か、悪性疾患への移行のどちらかを示唆するため、慎重な経過観察が必須である。
PNHという疾患の自然経過と寛解の背景にある機序について、今後さらなる研究が必要である。

監修者のコメント

10年以上の長期フォローアップを受けているPNH患者の一部に、自然寛解が見られることが以前より報告されている。自然寛解の頻度は諸報告によりまちまちであり、本ポスターに引用されているスペインからの30%、英国からの15%という高い発現率の報告がある一方で、2004年の本邦の造血障害班のまとめでは、およそ5%にとどまっている。自然寛解が起こる機序としては、PNH型血球を産生するPIGA遺伝子変異幹細胞が5〜20年で寿命を迎えるため、PNH型血球が消失することなどが推察されている1)
本研究は、フィンランドのPNH患者106例のPNHクローンサイズの変化や、その後の臨床経過をretrospectiveに解析したものである。他の造血器悪性疾患を発症した場合にPNHクローンが消失することや、免疫抑制療法がPNHクローン消失に影響を及ぼすと考えられることなど、示唆に富む大規模スタディ報告であった。今後global規模で、さらに知見を集積していくことが求められる。

1)石山 謙,中尾 眞二.骨髄不全症におけるPNH型血球の消長.血液フロンティア2016; 26: 843-850

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