EHA2015速報

Simultaneous Session S829

スペインのPNHレジストリの患者コホートにおける急性および慢性腎不全
Acute and Chronic Renal Failure in a Patient Cohort From The Spanish PNH Registry

Hematology Service, Hospital Clínico Universitario San Carlos, Madrid, Spain

Ana Maria Villegas先生
Ana Maria Villegas先生

背景

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は慢性の造血幹細胞障害で、血管内の溶血性貧血、血栓症リスクの亢進、骨髄不全を特徴とする1-3)。原因はPIGA遺伝子の体細胞変異で、赤血球のGPIアンカー型蛋白が欠損し、補体が制御できなくなり、血管内で溶血性貧血が進行する4-6)。本研究では、急性および慢性腎不全を発症したPNH患者の臨床検査値を調べ、エクリズマブの投与が腎機能に及ぼす影響を検討した。

方法

2014年4月時点でスペインのPNHレジストリには128例のPNH患者が登録された。古典的PNHと診断されたのは60例(47%)で、そのうち27例(45%)は急性および慢性腎不全の発症例であった。この27例を対象に患者背景、臨床検査値、エクリズマブ投与後の腎機能の変化、急性腎不全の発症の有無を検討した。

結果

急性および慢性腎不全を発症したPNH患者27例の背景は、男性12例(44.4%)、年齢48.5歳、PNH診断年齢38.6歳で、顆粒球は71.7%、単球は76.6%、赤血球は42.3%であった。
急性腎不全を発症せずに慢性腎不全を発症した患者が5例(18.5%)、急性腎不全を経て慢性腎不全を発症した患者が8例(29.6%)、急性腎不全を発症したが慢性腎不全には至らなかった患者が14例(51.9%)で、溶血発作は20例(76.9%)で認められた。
急性腎不全は22例で30回発症し、発症回数は1回が17例、2回が4例、5回が1例であった。
急性腎不全診断時の臨床検査値平均は、LDH値3,880UI/L、ヘモグロビン値8.1g/dL、網赤血球7.6%、尿素117.3mg/dL、クレアチニン値4.4mg/dL、糸球体濾過量(GFR)26.8mL/分/1.73m2、蛋白尿534.8mg/24時間で、ヘモグロビン尿症22例中21例(95.5%)、ヘモジデリン尿症16例中15例(93.7%)、尿円柱15例中9例(60%)で認められた。
慢性腎不全発症時の臨床検査値は、尿素41.7mg/dL、クレアチニン1.5mg/dL、GFR 56.8mL/分/1.73m2、蛋白尿が814.4mg/24時間であった。
急性腎不全例ではPNH診断から5年後の急性腎不全回避生存率は56.5%、急性腎不全回避生存期間中央値は7.3年、慢性腎不全発症例ではPNH診断から5年後の慢性腎不全回避生存率は60.9%、慢性腎不全回避生存期間中央値は14.5年であった()。
急性腎不全発症時に透析が必要だった患者は22例中6例(28.6%)で、14例(63.6%)は完全に回復し、回復までの平均日数は13.3日であった。
エクリズマブが投与されたのは23例で、20例は現在も投与を継続中である。エクリズマブの平均投与期間は3.9年で、エクリズマブ投与後に急性腎不全を発症したのは19例中1例(5.3%)であった。
エクリズマブの投与によって、慢性腎不全診断時(8例)の血清クレアチニン値は1.5mg/dLから6ヵ月後(4例)には1.0mg/dLに低下し、その後も18ヵ月後(4例)まで同レベルを維持できた()。GFRは慢性腎不全診断時(8例)には57.1mL/分/1.73m2であったが、エクリズマブ投与6ヵ月後(4例)には69.8 mL/分/1.73m2、12ヵ月後(4例)には80.8 mL/分/1.73m2、18ヵ月後(4例)には88.3 mL/分/1.73m2と経時的に回復した()。

図 PNH診断から急性腎不全、慢性腎不全発症までの期間

図 PNH診断から急性腎不全、慢性腎不全発症までの期間

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表 慢性腎不全発症例におけるエクリズマブ投与後の腎機能の推移

表 慢性腎不全発症例におけるエクリズマブ投与後の腎機能の推移

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結論

今回の検討から、エクリズマブを投与したPNH患者では急性腎不全の発症リスクは低く、慢性腎不全の進行は認められないことが示された。エクリズマブを投与した全例が現在も生存していた。

References
1) Brodsky RA, et al. Blood 2008; 111: 1840-1847
2) Hillmen P, et al. Am J Hematol 2010; 85: 553-559
3) Rosse WF, et al. Int J Hematol 2003; 77: 113-120
4) Luzzatto L, et al. Br J Haematol 2011; 153: 709-720
5) Maciejewski JP, et al. Blood 1997; 89: 1173-1181
6) Brodsky RA. Hematology Am Soc Hematol Educ Program 2008; 111-115

監修者のコメント

腎不全はPNHの重要な合併症であり、予後を左右する重要な因子の一つである。スペインでのレジストリの報告であるが、エクリズマブ投与後の急性腎不全発症が1例のみであったことから溶血発作の抑制・予防が最も重要であることが明らかである。
レジストリは世界規模で進行中であり、昨年中間報告が発表された。今後、世界規模での症例集積・解析が行われることで一層の病態解明が期待される。

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