EHA2015速報

Simultaneous Session S827

マイナーPNH型血球とリンパ球テロメア長を組み合わせることで、小児再生不良性貧血の免疫抑制療法への反応性を予測できる
Combination of Minor Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria Clones and Lymphocyte Telomere Length Predict Responsiveness to Immunosuppressive Therapy in Pediatric Aplastic Anemia

Department of Pediatrics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan

Atsushi Narita先生
Atsushi Narita先生

背景

再生不良性貧血(AA)の治療の第一選択はHLA一致血縁ドナーからの骨髄移植であるが、ドナーが得られない患者には、免疫抑制療法が選択される。しかし、強力な免疫抑制作用により重篤感染症に罹患するリスクが上昇し、その後の代替ドナーからの造血幹細胞移植の成功率にも負の影響を与える可能性がある。免疫抑制療法への反応性が予測できれば、不必要な免疫抑制療法を行うことなく、有害事象の発現回避や医療費の抑制が期待できる。
過去の研究では、免疫抑制療法への反応性の予測因子として、年齢、性別、診断から治療開始までの期間、診断時血球数、マイナーPNH型血球、リンパ球テロメア長が報告されている1-3)。AA患者では診断時にフローサイトメトリーで患者の20~70%でマイナーPNH型血球が検出され、AA患者では同年齢の正常群に比べてテロメア長が短縮していることがわかっている。本研究では、マイナーPNH型血球とテロメア長を組み合わせることで、免疫抑制療法への反応性および予後が予測できるかどうかを検討した。

 

方法

後天性AAと診断された小児患者113例(男児63例、女児50例)を対象とした。免疫抑制療法として、49例はウマ抗胸腺細胞グロブリン(ATG)を5日間、64例はウサギATGを5日間投与し、全例にシクロスポリンAを180日以上投与した。
PNH型血球はフローサイトメトリーで測定し、CD13+CD55-CD59-顆粒球>0.005%およびグリコフォリンA+CD55-CD59-赤血球>0.010%の場合をPNH型血球陽性と判定した。末梢血リンパ球のテロメア長は、flow-FISH with telomere PNA kitsを用いて測定し、年齢調整後の相対値を求め、-1.21SD未満をテロメア長短縮群とした。PNH型血球陽性とテロメア長短縮のカットオフ値はROC曲線を用いて定義した。テロメア長が-2.5SD未満であった9症例に対してTarget gene sequencingを実施したが、テロメア関連遺伝子の変異を認めなかった。

 

結果

6ヵ月後の評価で、免疫抑制療法に反応したのは60例、反応しなかったのは53例であった。両群の年齢、性別、AAの病因、重症度、ATGの種類に有意差を認めなかった(表1)。
6ヵ月後の免疫抑制療法への反応性は、マイナーPNH型血球陽性群(47例)は陰性群(66例)に比べて高く(77% vs. 36%、p <0.001、Fisher's exact test)、テロメア長が長い群(61例)は短い群(52例)に比べて高かった(71% vs. 33%、p <0.001、Fisher's exact test)。
多変量解析では、マイナーPNH型血球陰性と相対的テロメア長の短縮が独立した予後不良予測因子であった(表2)。
マイナーPNH型血球陰性かつ相対テロメア長が短縮している患者をunfavorable群(37例)、その他をfavorable群(76例)と分類したところ、favorable群ではunfavorable群に比べて3ヵ月後および6ヵ月後の治療反応性が有意に高かった(70% vs. 19%、p <0.001、Fisher's exact test)()。
カプラン-マイヤー解析では、累積再発率、累積クローン変化率、全生存率には有意な群間差は認められなかったが、治療失敗回避生存率(p <0.001)、移植回避生存率(p =0.003)はfavorable群で有意に高かった。

表1 免疫抑制療法の反応した群と反応しなかった群の背景比較

表1 免疫抑制療法の反応した群と反応しなかった群の背景比較

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表2 免疫抑制療法に対する反応性の解析結果(単変量解析および多変量解析)

表2 免疫抑制療法に対する反応性の解析結果(単変量解析および多変量解析)

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図 favorable群とunfavorable群の免疫抑制療法に対する反応率

図 favorable群とunfavorable群の免疫抑制療法に対する反応率

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結論

今回の検討からマイナーPNH型血球陰性かつ相対テロメア長が短縮している患者では免疫抑制療法への反応性が低いことが示された。これら2つのマーカーを組み合わせることで、予後不良と考えられる群において不必要な免疫抑制療法を回避し、代替ドナーからの造血幹細胞移植をfront-lineの治療として選択する治療戦略がなりたつ可能性がある。

References
1) Chang MH, et al. Eur J Haematol 2010; 84: 154-159
2) Scheinberg P, et al. Br J Haematol 2009; 144: 206-216
3) Yoshida N, et al. Haematologica 2011; 96: 771-774

監修者のコメント

再生不良性貧血では微小PNH型血球などいくつか免疫抑制療法の反応性推定因子が知られている。演者らは微小PNH型血球とテロメア長を組み合わせることによって免疫抑制剤への反応性を推定できる可能性を示した。再生不良性貧血の治療は免疫抑制療法と同種造血幹細胞移植が柱となるが、免疫抑制療法への反応性を推定する因子の解析は治療選択に大いに関与してくることとなる。一方で、累積再発率や全生存率に有意差はなかったことから、より明確な予後因子の探索が望まれる。今後は、成人例での確認・テロメア長測定のコスト・検査法・保険適応の是非などの検討が必要となるだろう。

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