ASH2014速報

Oral Presentation 253

後天性再生不良性貧血におけるクローン性造血の経時的解析
Chronological Analysis of Clonal Evolution in Acquired Aplastic Anemia

Tetsuichi Yoshizato, et al.
Department of Pathology and Tumor Biology, Faculty of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan


Tetsuichi Yoshizato 先生

背景

後天性再生不良性貧血(AA)は典型的な骨髄不全症候群であり、造血性前駆細胞が免疫系によって破壊されることで生じ、患者のほとんどは免疫抑制療法に反応する。AAでは、しばしばクローン性造血が観察され、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の形質を有するPNHタイプ細胞はAAの約半数に、6番染色体短腕のuniparental disomy (6pUPD)は13%で認められる。さらに患者の10~15%では、長期合併症として腫瘍性クローンが発生・拡大し、骨髄異形成症候群(MDS)または急性骨髄性白血病(AML)に進展する。本研究では、日米の3つのAA患者コホートを対象に遺伝子変異の頻度および経時的変化を調べ、遺伝子変異の保有状況から患者の転帰を層別できるかどうかを検討した。

方法

米国国立衛生研究所(NIH)、金沢大学、クリーブランドクリニックのAA患者コホート439例の666の血液サンプルを用いて解析を行った。82例では経時的にサンプルが収集できた。骨髄腫瘍で遺伝子変異が高頻度で認められる候補遺伝子106についてターゲット・シークエンス解析を行い、52例で全エクソーム・シークエンス解析を行った。変異の経時的変化はPCRベースのシークエンス解析で検討した。

結果

遺伝子変異の発現頻度
3つのコホートで、AA患者の約3分の1に骨髄腫瘍関連遺伝子変異が同定され、変異例の約3分の1は複合変異保有例であった(図1)。発現頻度が高かったのはBCOR/BCORL1、PIGA、DNMT3A、ASXL1の5遺伝子であった(図2)。MDSに進展したAA患者ではTET2、SF3B1、SRSF2などの遺伝子変異の発現頻度が高かった。
変異クローンの経時的変化および加齢の影響の検討
クローン性造血はAA患者の47%で認められた。AAで高頻度に検出された上記5遺伝子について変異アリル頻度(VAF)を経時的に調べたところ、DNMT3AASXL1は増加傾向を認めたが、BCOR/BCORL1PIGAは不変か減少していた。また、加齢に伴い遺伝子変異は増加傾向を示したが、BCOR/BCORL1PIGAに限れば加齢による変化は乏しかった。また、経過中に優勢な変異クローンが変化することがわかり、特定クローンによる造血を予測することは難しかった。
遺伝子変異と治療反応性や転帰との関係
遺伝子変異の有無で治療効果や予後を比較すると、免疫抑制療法の反応性、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)に両者で差を認めなかった。しかし、抽出した変異遺伝子ごとに検討すると、PIGA、BCOR/BCORL1の変異保有群は予後良好で、DNMT3A、ASXL1、TP53、RUNX1、CSMD1などの変異保有群は予後不良であった(図3)。

図1. AA患者の後天性遺伝子変異の発現率

図1. AA患者の後天性遺伝子変異の発現率

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図2. AA患者における骨髄腫瘍関連遺伝子変異の頻度

図2. AA患者における骨髄腫瘍関連遺伝子変異の頻度

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図3. 変異遺伝子の保有状況とOS、PFS

図3. 変異遺伝子の保有状況とOS、PFS

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結論

AA患者の47%でクローン性造血が認められ、その多くは加齢に伴う変異、C→G置換であった。
MDSとの比較から、AAでみられる遺伝子変異はBCOR/BCORL1、PIGA、DNMT3A、ASXL1に偏在しており、これは骨髄不全環境下における特定クローンの選択機序を理解する上で示唆を与える。
DNMT3A、ASXL1の変異クローンは経時的に増加傾向を示した。一方、BCOR/BCORL1、PIGAの変異クローンは増加しないが、良好な免疫抑制治療効果や全生存と関連した。
クローン性造血のパターンを予測するのは難しく、優勢なクローンの存在がMDS/AML発症と必ずしも関連するわけではなかった。
次世代シークエンス解析を用いてクローン性造血を頻回に確認することで予後予測や治療方針の決定に役立つと考えられる。

監修者(川口先生)のコメント

再生不良性貧血(AA)では、PNHやMDS/AMLなどclonal evolutionを認め、変異クローンが発生しやすい造血環境が想定される。発病初期から微少PNH型血球が検出されやすいことはこれを裏付けており、検出方法の工夫次第では他にも変異クローンが検出できるかも知れない。演者らは、AA患者を対象に、次世代シークエンスによる骨髄系腫瘍関連遺伝子の変異解析を行い、約半数に変異クローンを確認している。変異遺伝子の種類は様々で、発現時期に一定のパターンは認めないが、AAで検出頻度が高い変異遺伝子の中には予後予測に役立つものも含まれており、今後の病態理解や臨床応用に役立つことが期待される。なかでもPIGA変異は予後良好群に含まれており、フェノタイプを指標とした微少PNH型血球の臨床的意義と合致しており興味深い。

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