ASH2011速報

ASH 2011 Oral 732

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)発症機序の新たな概念:PNH造血幹/前駆細胞(HSPCs)は、接着不全、走化性亢進により運動性が高まり、正常HSPCsを骨髄ニッチから駆逐するか?

Janina Ratajczak, et al. Stem Cell Institute, James Graham Brown Cancer Center at University of Louisville, KY, USA

Ratajczak氏
Ratajczak氏

サマリ

PNH患者10例の末梢血単核細胞より単離した正常HSPCsとPNH型HSPCsを用い、HSPCsの骨髄間質細胞に対する接着能、SDF-1/S1Pに対する走化反応について比較検討した。その結果、脂質ラフト形成不全のある、PNH型HSPCsでは、移動能が亢進した。さらに、補体介在性溶血により放出されるS1Pに反応して、PNH型HSPCsは末梢血に優位に動員された。すなわち、PNH型HSPCsは移動能の亢進により、正常HSPCsに比べて優位に骨髄ニッチを占めることができ、PNHにおけるPNH型血球の拡大に寄与している可能性が示唆された。

背景

発作性夜間ヘモグロビン尿症 (PNH) は、Glycosylphosphatidylinositol (GPI) アンカーの生合成に関与するPIG-A遺伝子に後天的に変異が生じた造血幹細胞がクローン性に拡大することにより発症する。しかしながら、そのメカニズムは現在まで十分には解明されていない。
GPIアンカーは補体制御因子などのGPI結合型蛋白質の細胞膜表面への発現だけでなく、脂質ラフトの形成にも関与している。演者らは、a-chemokine stromal derived factor-1 (SDF-1)と結合することにより、造血幹細胞/前駆細胞 (HSPCs) の移動を調節しているCXCR4受容体はまた、脂質ラフトにも関与していることを報告した。さらに、HSPCsの骨髄から末梢血への動員を誘導する主たる化学物質であるSphingosine-1 phosphate (S1P) が、補体介在性の血管内溶血時に赤血球から放出されることも最近報告した。これらの事実にもとづいて、演者らは、脂質ラフトの形成不全によるHSPCsの骨髄微小環境における接着不全ならびに、PIG-A欠損赤血球の補体活性化に対する感受性亢進による溶血により増加したS1Pによって、HSPCsが末梢血に持続的に動員されている可能性について検討した。

方法

末梢血単核細胞 (PBMNCs) をPNH患者10例より、FLAER試薬を用いFACSにより正常幹細胞とPNH幹細胞を単離した。
単離したPBMNCsを用いて、CD34およびCD133抗原の発現レベル、SDF-1およびS1Pに対する走化反応、フィブロネクチンおよび骨髄間質細胞に対する接着能を評価した。

結果

PNH患者の末梢血中に含まれるFLAER陰性CD34陽性細胞数は、FLAER陽性CD34陽性細胞数の約3倍多く検出された。この結果は、PNH患者では、PNH型HSPCsが末梢血中に優先的に放出/動員されていることを示唆している。トランスウェル移動アッセイと、その移動細胞を用いたコロニーアッセイを行ったところ、SDF-1に反応したFLAER陰性細胞は、FLAER陽性細胞の約20倍のCFU-Mixコロニーを形成した(図1)。対照的に、SDF-1/S1P存在下の骨髄間質細胞上へのCFU-GMの接着能は、FLAER陰性細胞の方がFLAER陽性細胞に比べて劣っていることが示された(図2)。さらに、FLAER陰性細胞では、細胞膜中に脂質ラフト構造を検出することができなかった。

図1 登録前の血栓塞栓症既往に対する有意な関連因子

図1.SDF-1に対する走化反応後のコロニー形成能:正常HSPCs(FLAER+) vs. PNH HSPCs(FLAER-)
縦軸:混合系前駆細胞(CFU-Mix)の遊走反応

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図2 登録前の血栓塞栓症の予測因子

図2:骨髄間質に対する接着能:正常HSPCs(FLAER+) vs. PNH HSPCs(FLAER-)
縦軸:顆粒球-マクロファージ系前駆細胞(CFU-GM)数

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結論

脂質ラフト形成不全に重要な働きをするPIG-A遺伝子の欠損により、PNH型HSPCsの移動能が亢進することが示された。さらに、補体介在性溶血により放出されるS1Pに反応して、PNH型HSPCsは末梢血により動員されることが示された。すなわち、PNH型HSPCsは移動能の亢進により、正常HSPCsに比べて優位に骨髄ニッチを占めることができ、PNHにおけるPNH型血球の拡大に寄与していると考えることができる。

監修者のコメント

これまでPNHの発症およびPNHクローンの拡大機序については、造血幹細胞のPIG-A変異後の免疫学的攻撃と付加的変異の側面から考察がなされてきた。ここでは造血幹細胞ニッチ、すなわち造血幹細胞と支持細胞からなる造血幹細胞微小環境におけるさまざまなサイトカイン、ケモカインによる造血発生制御の観点から捉えられており、あらたな切り口であるといえる。すなわち、PIG-A欠損によるPNHクローンの運動性亢進によりPNHの病態が完成されるという考え方である。しかしながら、本研究で走化性亢進の原因と捉えられている溶血はPNHでは発症当初には顕著ではない、などの矛盾もある。造血幹細胞ニッチについてはいまだ未解明な部分も多いが、今後の研究により、PNH発症、PNHクローン拡大の機序の新たな知見がもたらされることを期待したい。

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