ASH2011速報 講演2

ASH 2011 Oral 731

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)におけるin vitro長期骨髄培養モデル:PNH細胞のクローン性拡大に対する骨髄内T細胞の直接作用

Richard J. Kelly, et al. Department of Haematology, St. James’s University Hospital, Leeds, United Kingdom/Section of Experimental Haematology, University of Leeds, Leeds, United Kingdom

Richard氏
Kelly氏

サマリ

健常者およびPNH患者由来の骨髄幹細胞の長期培養による、コロニー形成能の比較が英国で行われた。その結果、PNH幹細胞の増殖は、正常幹細胞と比較して本質的な優位性を示さないことが改めて示された。一方で、T細胞による免疫学的攻撃がない環境では、正常幹細胞はPNH幹細胞よりも有意に増殖する可能性が示された。

背景

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、造血幹細胞におけるPIG-A遺伝子の後天的変異により発症する。そのため、PNH患者では、GPIアンカー型蛋白の血球での発現が著明に低下しており、このことがPNHの病態に深く関連している。PNHクローン拡大の原因は、PIG-A遺伝子変異が挙げられるものの、この変異は健常者でも認められるなどの知見から、PIG-A遺伝子変異だけではPNHクローンの拡大を説明するには不十分である。微少PNHクローンが、多くの再生不良性貧血(AA)で、また、頻度は高くないものの一部の骨髄異形成症候群(MDS)に見いだされることから、免疫系を介した骨髄不全がPNHクローンの拡大に重要な役割を果たしているという仮説のもと、本研究を開始した。

方法

骨髄間質細胞株(M2 10B4)を用いた長期骨髄細胞培養(LTBMC)モデルを構築し、健常者コントロール10例(年齢中央値42歳)、PNH患者11例(年齢中央値47歳;顆粒球クローンサイズ95.3%)の骨髄サンプルを用いて骨髄コロニー形成能を評価した。本検討では、骨髄サンプルとして健常者コントロール、PNH患者由来の単核細胞(MNCs)、CD34陽性幹細胞(PNH CD34+)およびT細胞除去MNCs(MNC-T)を用いた。また、骨髄コロニー形成能評価に先立ち、培養は毎週培地を1/2交換しつつ維持し、子孫細胞の細胞数を計測し、フローサイトメトリーによる評価を行った。

結果

骨髄前駆細胞のコロニー形成は、 PNH MNCsでは4週間しか維持されなかったのに対し、MNC-Tでは、健常者コントロールMNCsやPNH CD34+と同様、最長8週間維持された(図1)。さらに、PNH2症例の実験系において、T細胞存在下(PNH MNCs)のコロニー形成は、2週以降は認められなかったのに対し、PNH MNC-Tでは2週以降もコロニー形成を認め、さらに正常(FLAER+)細胞の増加傾向を認めた。

骨髄前駆細胞コロニーの子孫細胞の平均数(PNHn=11)

図1:骨髄前駆細胞コロニーの子孫細胞の平均数(PNHn=11)
縦軸:クローン数、横軸:期間(週)

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結論

以上の結果から、PNH幹細胞の増殖は、正常幹細胞と比較して本質的な優位性を示さないことが改めて示された。一方、T細胞による免疫学的攻撃がない条件下では、正常幹細胞がPNH幹細胞よりも有意に増殖する可能性が示された。これらの結果により、PNHやAAで発症する骨髄不全に対する治療法を確立するうえで、T細胞の機能を抑制することは一つの手がかりとなるのかもしれない。

監修者のコメント

現在提唱されているPNHクローンの拡大機序は、再生不良性貧血(AA)にみられるような異常な免疫学的環境下では、GPIアンカー結合型蛋白を欠損したPNH幹細胞は、免疫学的攻撃から逃れることができ、PNHクローンの割合が相対的に増加するというものである。しかしながら、この仮説だけでは、骨髄および末梢血ともにPNHクローンが増殖における優位性を獲得し拡大する理由を説明できないため、さまざまな仮説が提唱されている。本知見は、増殖において、PNHクローンは正常クローンに対して本質的な優位性をもたないとする従来の仮説を支持するものである。また、本知見を臨床現場に反映させるとすると、免疫学的に異常な環境下で発症する骨髄不全症候群に対し、T細胞機能抑制剤であるシクロスポリンや抗胸腺細胞グロブリン(ATG)などの免疫抑制剤によって、造血を回復しつつPNHクローンの拡大を抑制し、正常な血球だけを増加させることにつながるという結論にいたるが、現実はそう単純ではないようである。

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