PNHの主な症状は、補体活性化による血管内溶血、骨髄不全および血栓症ですが、それぞれの症状の程度とそのバランスは症例ごとに様々です。 通常は、対症療法として、これらの各病態に応じた治療を行います。
溶血発作に対しては一定の効果が期待できるとされていますが、 長期使用による副作用の観点から推奨しないという意見もあります。
溶血発作時の急速なヘモグロビン低下あるいは骨髄不全のために高度な貧血をきたす場合は、 輸血を要することがあります。従来推奨されてきた洗浄赤血球輸血は必ずしも必要ではなく、一般的に用いられている赤血球濃厚液(RCC)で十分とされています。
溶血の強いPNHではヘモグロビン尿、ヘモジデリン尿をきたして鉄を喪失するため、多くの症例で鉄欠乏状態となっていますが、 溶血を誘発する可能性があるので、投与にあたっては慎重に行う必要があります。
溶血発作時の遊離血色素による腎障害を防止するために、積極的に輸液による利尿をはかりつつ、ハプトグロビンを投与することがあります。 蛋白同化ステロイド薬は骨髄低形成を呈するPNHに有効とされています。
血栓症の予防と治療には、ワルファリン製剤やヘパリン(または低分子ヘパリン)による抗血栓療法が行われています。
慢性溶血に対して補体C5に対するヒト化モノクローナル抗体であるエクリズマブが開発され、補体C5に高い親和性で結合し、C5からC5a,C5bへの開裂を阻害します(図1)。 それによって終末補体活性化経路(MAC形成)を完全に阻止し、溶血に対する劇的な抑制効果が示されています(図2)。 治療開始の基準となる明確な値は設定されていませんが、特発性造血幹障害に関する調査研究班によるPNH診断の参照ガイドでは、 「GPI欠損赤血球クローン(PNHタイプⅢ)が10%以上のPNH症例で、補体介在性の溶血所見(LDH値基準値上限の1.5倍以上)を有し、溶血のため赤血球輸血の必要性が見込まれる患者に投与されることが望ましい」とされています。
※エクリズマブ投与により、髄膜炎菌による感染症のリスクが高まるため、少なくとも治療開始2週間前までに髄膜炎菌ワクチンの接種が必要となります。
エクリズマブ投与患者の疲労感は、投与後1週間で改善し、2週目以降も持続したことが確認され、海外データにおいても78%の患者に有意な疲労感の改善を示したことが報告されています13-①、②。
造血幹細胞移植(HSCT)は現時点においてPNHに対する唯一の根治療法です。PNHに対する移植適応となる明確な基準や至適な移植法に関しては十分なエビデンスが蓄積されてはいません。
PNHは一部の症例を除き、一般的に長期予後は良好といわれているため、移植の適応は慎重に検討されなければなりません。
現時点では、血球減少症の進行(+それに伴う感染、出血などの合併症などの出現)、溶血による頻回の輸血、そして、一部の症例では繰り返す血栓・塞栓症などがPNHにおいて移植を適応とする主な理由です。
しかしながら、エクリズマブの導入によって、移植適応(理由)は「エクリズマブの効果が不十分でこのような合併症が認められる症例」や、若年者で長期にわたるエクリズマブの治療への経済的負担が大きい場合、などが移植の相対的適応となるかもしれません。
NPO法人「PNH倶楽部」は、発作性夜間血色素尿症(PNH)患者と家族の会です。サポートセンター、医療費助成基金、活動等についての情報が掲載されています。
13-① Kanakura Y, et al. Int. J. Hematol. 2011; 93: 36-46.
13-② Brodsky RA, et al. Blood. 2008;111:1840-1847.