遺伝子異常とPNHクローンの拡大機序

遺伝子異常とPNHクローンの拡大機序

PNH発症には、少なくともPIG-A遺伝子の変異と、PNHクローンの拡大が必要です。

PIG-A遺伝子変異

PNHの病因遺伝子であるPIG-Aは、GPIアンカー合成の最初のステップである糖転移反応(N-acetylglucosamineをPhosphatidylinositol(PI)に転移)を触媒する酵素GPI-N-acetylglucosaminyltransferase (GPI-GnT)の活性部位をコードしています。 PNHでは、PIG-A変異によりGPI-GnT機能が消失または低下するためGPIアンカー蛋白の膜発現が障害されます(図1)。
図1. GPIアンカーの基本構造とPNHにおける障害部位 川口辰哉:発作性夜間ヘモグロビン尿症の病態理解と治療の進歩.臨床血液;51;130-139;2010.
図1:GPIアンカーの基本構造とPNHにおける障害部位
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PNHクローンの拡大機序

PIG-A変異だけではクローン拡大には不十分であり、PNHの発症につながらないことがPNHモデルマウスを用いた研究で明らかになってきています3-①-⑤
現在考えられるPNHクローンの拡大機序(図2)としては、まず造血幹細胞にPIG-A変異が起こり(ステップ1)、次に免疫細胞の攻撃により造血幹細胞の数が減少し、GPIアンカー欠損細胞はこの攻撃から逃れ相対的に増加する(ステップ2)と考えられています。 しかし、再生不良性貧血(AA)から発症してきたPNHや高度な造血不全を伴うPNHではPNH細胞の割合は30%程度であり、血球の多くがPNHクローンに置き換わる古典的PNH(classic PNH)を説明するにはこれだけでは不十分です。 おそらく、ステップ2で相対的に増加したPNH幹細胞が増殖を繰り返す過程で、良性腫瘍性増殖をきたすような遺伝子の変異がPNHクローンに起こり、このサブクローンが他クローンを圧倒し、最終的に骨髄、末梢血ともにPNH細胞に凌駑されて病態は完成すると考えられています(ステップ3)。

図2:PNHクローンの拡大機序-多段階説 「西村純一,金倉 譲:発作性夜間ヘモグロビン尿症,難治性貧血の診療ガイド(「難治性貧血の診療ガイド」編集委員会編),P.96, 2011, 南江堂」より許諾を得て転載
図2:PNHクローンの拡大機序-多段階説
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Step1:
PIG-A変異が造血幹細胞に起こる
Step2:
免疫学的攻撃による正常幹細胞の減少とPNH幹細胞の相対的増加
Step3:
第2の異常によるPNH幹細胞のクローン性拡大

慢性溶血は、PNH赤血球が補体の攻撃を受けることにより起こります3-①。
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3-① Kawagoe K, et al. Blood. 1996;87:3600-3606.
3-② Rosti V, et al. J. Clin. Invest. 1997;100:1028-1036.
3-③ Murakami Y, et al. Blood. 1999;94:2963-2970.
3-④ Tremml G, et al. Blood. 1999;94:2945-2954.
3-⑤ Keller P, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1999;96:7479-7483.

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